Diary

2010.8.12010/8

木暮です。

7月17日

KESEN ROCK FES に出演。もう何度も来ているのに、相変わらず峠の道の運転は慣れない。去年は雨が降っていて、楽屋のテントの脇に小さな川ができてしまうほどだったが、今年は晴れてよかった・・・と思っていたら、自分達の演奏順の時だけ小雨がパラつく。しかしステージから観た夕暮れの客席は、靄がかって幻想的だった。

夜、酔いどれないよう梅酒のソーダ割を飲み続ける。部屋に帰ると、東京から遊びに来ていた鹿野さんが死んだように眠っていた。

7月某日

地下への階段を下っていくと、エフェクト音と太いキックの音が聴こえてくる。ガラスの扉を開けると、先生が画面の中のザンギエフを操り、エンジニアの星野君を一方的にいたぶっていた、口元に笑みを浮かべながら(!)。狭いロビーの中を死んだ目で徘徊するイナミは、時折、思い出したように「バビロンから啓示を」と 口ずさんだりする。・・・タロウは椅子の上に立って、アルミホイルを大胆に貼り付けたギターを弾いていた。「こ、こうするとノイズが乗らないんですよ、フ、ふふ、コココ、キキキ」・・・。

いい音楽が生まれますように in Sci Fi。

8月某日

アベンジャーズがいなくなって少し寂しいスタジオにて、シングル・ストロークの世界記録に挑戦。YOUTUBEでマイク・マンジーニの記録達成時のフォームを見て、一瞬であきらめる。それから小一時間、壁の一点を見つめたまま無為に過ごしてから、コーヒーを買いに地上へ出ると、交差点は素晴らしい夕景。こんな音楽を 作れたらいいな。

8月某日

日ざかりの午後、商店街を抜けるついでに蕎麦屋へ。いつものように、「もり一枚」、と言いかけたところで、「冷やし中華始めました」という壁の一文が目に入る。こうなってくると話が違ってくるな・・・と心でつぶやきつつ、ビールと冷やし中華を注文。真夏の昼間に飲むビールの一口目は、たまらないですね。一服している と、冷やし中華が運ばれてくる。細切りのハムと錦糸卵、きゅうり、紅生姜。黄色い麺に絡む酸っぱいつゆ。全体に胡麻が散らしてあり、それがまた微妙な香ばしさを足している・・・。そんなことを考えているうちに、あっという間に平らげてしまった。

ほろ酔い気分を覚ますのに十分な日差しにやられつつ、いつものように地下への階段を下っていくと、気だるい午後の様なアンニュイな旋律が聴こえる。今の俺の気分を象徴したようなこの音楽は何だ?・・・それは、アベンジャーズと入れ替わりに録音に訪れたバルーンズの新しい曲だった。

「この曲には、夏の午後の気だるさがよく出ていますね」
「夏...? これは断頭台の階段を上っていく人の曲だよ」

8月某日

ロック・イン・ジャパンに出演。12時20分という真夏の炎天下、たくさんの人が観に来てくれて、本当に信じられない気持ちになる。灼熱の太陽に照らされる中、観ている人がその暑さを忘れてしまうほどの何かを、僕たちは聴かせることができたのだろうか・・・?終演後、バック・ヤードのパラソルの下で、そんなこ とを考える。僕たちは芸能人ではないし、観に来てくれる人たちを「ファン」と認識して上段に構えるようなアーティスト気取りでもなく、環七沿いで千鳥足、または地下スタジオでシンバル・フリスビーが日常の下駄野郎4人で、バンドという形もその延長に過ぎない。好きな音楽を作り、演奏する。そんな勝手気ままな僕たちを 、対価を払って観に来てくれる人達がたくさんいる。そのことを考えるといつも、言葉では言い尽くせない気持ちになる。
非日常が日常になってしまえば、自分達が、宝くじに当たったくらい幸運だということも忘れてしまう。しかし、一体お前が何を成し遂げたって言うんだ?

世相は相変わらず暗く、情報の多さや都市生活に伴うある種の息苦しさが、他人に対する想像力や感情移入する力を麻痺させているような、乾いた言葉が溢れている。殺伐とした悪意の切れ端に頬を撫でられて落ち込むことも多い。それらに飲み込まれないよう、昨夜話した友達の言葉や、下北で乗ったタクシー運転手との会 話、関内の朝の風景、消えない残滓、様々なことを反芻しながら新高円寺まで歩く。中古盤屋へ行く。深夜映画を観る。蕎麦を食いながらゴルゴを読む。PCの電源を入れて、世界中で日々更新されていく新しい表現と、膨大なそれらのアーカイブを閲す。時折その量感に圧倒されて、探すのさえ面倒になるけど、未知の感動は触れれ ば手の届く場所に転がっている。街を歩いていたって見つけることができる。そういうものに触れた時の情動の細波の記録を、ハードディスクから見つけるように取り出すことは僕にはできないけど、その影響は確実に体のどこかに染み込んでいて、そうして僕もまた変わっていくのだろう。

10年前、僕たちの音楽は友達に聴かせるためのものだった。ライブを観ていたのも友達、或いはまたその友達。デモ・テープは無料で配った。いまは友人達と、大勢の未知の人達が色々な場所に観に来てくれる。知らない人がCDを買ってくれる。しかし、僕たちは始まった時から何も変わっていないから、見知らぬその人達 を赤の他人とは言い切れない。

8月某日

フロンティア・バックヤードのドラマー、TDC氏との酔いどれ会話のショート.バージョンが、8月21日発行のGBEVに載ります。その5日後くらい完全版がここに載る予定です。

よい夏を。