Diary

2017.8.3“Memories to Go”リリース・インタビュー No.02 川崎亘一

海釣りの日焼けがとても痛そうな川崎さんに色々聞いてみました。(聞き手 木暮栄一)

ーモズライトっていま何本持ってんの?

「え?……6本……かな」

ー the band apart の初期は、歪んだギターでロック的なアプローチをする曲も割と多かったと思うんだけど、そこであまりそういうイメージの無いモズライトを選んだ理由って何?

「……見た目のカッコ良さ。見た目がとにかくカッコ良い、それだけの理由」

ーそうなんだ。それで使ってみての第一印象は?

「使いづらいなーって思った。だからバンド界隈のヤツは誰も使ってねーんだろうなって。まあ、それで逆に使いこなしてみたい、とも思ったけど」

ー親父さんが昔使ってたんだっけ?

「そう。でも親父のギターは壊れてたから、最初のシングル(Fool Proof)の印税で新しいのを買ったんだよね。だからファースト・シングルだけフライング・Vで録ったのかな。……その後の “K (and his bike)”のレコーディングの時は全然思い通りの音が作れなくて……試行錯誤しながら、現在に至るっていう」

ー使ってるアンプとかも含めて、目指してる音ってどんなイメージなの?

「……シンプルに言うと『ローファイな感じ』かな。あんまり綺麗な音にはしたくない。今の機材って、どんなギターで鳴らしてもある程度クリアーで解像度の高い音が出るアンプとかエフェクターだったり、そういうベクトルのものが多いと思うんだけど、正直誰が弾いても似たような音になっちゃうよな、って俺は思ってて。昔、俺が好きで影響を受けたバンドってそうじゃなかったから。まあ、時代とか録音の状態/環境もあると思うけど」

ーだけど、一般的なところで言う『良い音』ってクリアーな音質のことだよね、たぶん。

「そういう音も聴く分には聴きやすくて良いんだけど、すぐ飽きちゃうっていうか。あんまり自分の印象には残らないことが多いかな」

ーそういった意味で好きな音のバンドって、例えば?

「うーん……誰だろう……まあ、これは録音された時代的な要素もあるんだろうけど、(レッド・)ツェッペリンとかイエスは、こんなにペラペラな音なのに何でカッコいいんだろうってずっと思ってた。……あとパッと思いつくのはモック・オレンジかな。すげー『ペラい』音だよね。」

ーははは、『ペラい』ってどういうこと?

「自分でも説明が難しいけど……その場の空気ごと録音してある、みたいな。凄く雰囲気のある、そういう質感の音」

ーなるほどね。その感覚は”Memories to Go”にも反映されてんの?

「うーん、どうだろう。わかんない」

ーじゃあ、アルバム制作にあたって何かイメージとかはあった?

「全然ない……なかった。『良い曲を作ろう』くらいかな」

ーフフフ……今回は川崎さんが作曲で煮詰まってる場面もけっこうありましたね。

「……そうだね。昔みたいにパッと思いつかないし、思いついてもイマイチ決めきれない、って言うのが続いたね」

ー”Super High”なんて最初は全然違う感じだったし。

「序盤のセッションからはかなり変わったな……つなげようと思ってたリフとかコード進行が噛み合ないことが多くて、それも時間がかかった理由かも」

ーあんまり思いつきで決めてくタイプじゃないよね。

「そうだね。なかなか自分の中で確信を得るのが難しいっていうのもあるし、時間的な制約がなかったら(同じフレーズを)ずっといじっていられるっていうか」

ー難航した結果できた”Super High”の手応えはどう?

「……まあ、良い感じにまとまったと思う。当初の予定とは全然違う曲になったけどね。……最初はもっとダークで土臭いロック、みたいなイメージだったんだけど」

ーダーカー・ザン・ダークネス的な……

「(無視して)……だけど曲の構成がある程度できた時点でまーちゃんに聴かせたら、『昔のダンス・ミュージックっぽいじゃん。アンダーワールドみたいだね』って言われて……『えっ』っていう」

ーフフフ……

「それで、一回ワケわかんなくなって……『そういう方向にアレンジしたら良いのか?』と思って、YouTubeでアンダーワールド聴いてみたり……」

ーはははは、アンダーワールド感はゼロだけどな。でも結果的に面白い曲になったんじゃない?アウトロとかライブ映えしそうな感じだし。

「そうだといいけど」

ーじゃあ、他の曲の感想、ギター的なアレなどを聞いていきますね。まず “intro〜ZION TOWN”。

「”intro”は……イントロっぽい。ギター的な感想っていうことなら、これ俺のギター入ってないしね。……ZION TOWNは、録る時に『果たしてここはAメロなのサビなのか』みたいに、全体像を知らないまま部分的にフレーズを弾いていって、完成したのを聴いてみて初めて『こういうことだったのね』って腑に落ちるという。最近のまーちゃんらしい曲だよね」

ー”Find a Way”。

「そうだな……うちらっぽい曲だし、わかりやすい良い曲っていう印象かな。プレイ的にもそんなに難しいフレーズがないから、ライブで(演奏が)まとまりやすいかも」

ー”Castaway”。

「まあ、これに限ったことじゃないけど、元ネタ持ってきた奴の個性がけっこう出てるよね。この曲の俺のパートはやってることがシンプルな分、エフェクターの設定とかシビアにやんなきゃダメそうだけど、ライブの時に音源とはまた違ったカッコ良さが出せれば良いなと思う」

ーアウトロのソロは即興で録ったよね。

「そう……だっけ?フフフ」

ーでは”KIDS”。

「ああ、これね。これはけっこう……良いギターの音が録れたかな、自分の中では。フレージングと機材、あとアンプやマイクの位置とかが上手くハマってくれて。かなり好きな感じの音で録れた……あと、やっぱりモック・オレンジを思い出すね」

ー”雨上がりのミラージュ”。

「すごく荒井っぽい曲だよね。この曲はデモがあったから、間奏のギター・ソロもなるべくデモに入ってたやつを踏襲して雰囲気を壊さないように気をつけたかな」

ーうちのバンドって、かなりの頻度で間奏にギター・ソロが入ってくるけど、それって川崎的には「またソロか……」とか思ったりするの?

「いや、それは別に思わないよ。その曲の中で一つのスパイスになるなら、いくらでも弾きますって感じ。やっぱり自分で曲を作ってても、ギター・ソロとかリフっぽい間奏があった方が、構成上の起承転結を作り易いし。……最近はけっこう『ここでソロお願いします』とか録音当日に言われたりもするけど、その短時間で出てきたものが『今の自分らしさ』ってことなんだろう……みたいな。まあ、簡単にできない時がほとんどだけど」

ーなるほどね。じゃあ “She is my lazy friend”。

「これは、アウトロが難しいね。まずソロの尺が長いし……音源だと自分が好きなスラッシュ・メタル・バンドの色々なフレーズをオマージュ的に弾いてたりするんだけど」

ーそうなの?全然わかんねー。

「聴く人が聴けばわかる程度に。だけど、ライブではCDの再現って言うより、もっと即興的な感じになる……なってしまうんじゃないかと」

ーあはは、即興、良いと思います。では次、”BOOSTER”。

「これも難しい……難しいっていうか、自分のやってこなかった要素がたくさんあって……まあでも、そういう新しいことに挑戦するのは俺も嫌いじゃないから」

ー鍵盤やアルペジエーターで作ったフレーズとか、色々全部作り直してもらったよね。

「そうだね。運指的に無茶な部分とか、ここはバリエーションつけた方が良くない?ってところを自分なりに直したり、逆再生ソフトで作ってあったフレーズなんかは、面白い感じになったんじゃないかな」

ーじゃあ”お祭りの日”。

「これは、サビで使ったエフェクターがライブで使えるのかどうかっていう。コントロールがすげー大変だからさ。昔の曲でも録音の時に使ってるんだけど、ライブだとタッチが繊細すぎてかなり使いづらくて……でも、この曲の象徴的な音色でもあるから、別のエフェクターを組み合わせて代用できるかどうか、これから色々試さないと」

ー”38月62日”。

「『まーちゃん』って感じの曲。ギターはけっこう歪んでてロックなのに、全体的には綺麗な印象っていうか……ビリー・ジョエルっぽい」

ーそうなの?

「まあ、俺もあんまりビリー・ジョエル知らないんだけど。子供の頃に流れてたCMでこんなのあったな、って錯覚するような……ビリー・ジョエル感。説明が難しいな」

ーちなみにアルバムって録り終わってから聴き直した?

「一応ね……何か、昔に少し戻ったような感じが全体の印象としてはあるかな。……自分のパートに関して言えば、『何やってるかよく覚えてない』っていう部分が……多すぎるね」

ーあははは、これからコピー祭りだね。じゃあ最後に、アジアン・ゴシック代表取締役として野望などあれば。

「野望……なのかどうかはわかんないけど、ここ一年くらいで考えてたのは、アジアン・ゴシックの会社としての可能性かな。例えば、仮に the band apart が終わるってなった時に一緒に終わってしまうのか、それとも続けていくのかどうか……新しいスタッフを入れてみたりして思ったのは、この会社を何らかの形で後世に残していくのも面白いんじゃないか、ってことで。もちろん簡単なことじゃないだろうけど、トライしていきたいなって思ってる」

ー昔、飲んでる時に『下赤塚にビルを建てる!』って宣言してたよね。

「フフフ、あれは単純に(スタジオの)家賃がなくなれば楽だなって思って。まあ、とにかく the band apart っていうものを切り離して考えた時にも、皆の拠り所としてアジアン・ゴシックっていう会社が何らかの機能を果たせるようになれば良いなって思う。最近は皆バンド以外にも色々活動してたりするし」

ー逆にそういう活動がレーベルにもフィードバックするような?

「まあ、それはそれで各々の考えがあるだろうから、これからみんなで話していけたらいいかな」

ーなるほど。

「あと、五味の兄ちゃん(LOSTAGE)がレコード屋をやってたり、忍さん(ASPARAGUS)が録音/マスタリングまでやってるのとか見てると、実際大変な部分はあるんだろうけど、『みんな頑張ってんなー』ってやっぱり刺激をもらったりするし」

ーそっか。具体的なアイディアはあったりすんの?……あっ『お茶漬け屋』?

「(無視して)具体的なアイディアはまだないけど……まずはスタジオの環境や設備を少しずつ改善していきたい」

ー例のロビーのフローリング化計画ね……ちなみに□□□をリリースしたのは、レーベル業務を活発化させよう的な思惑があったから?

「いや、あれはタイミングが合っただけだね」

ーありがとうございました。

(2017年8月1日 AGスタジオにて)