Diary

2017.7.24“Memories to Go”リリース・インタビュー No.01 荒井岳史

好きな魚は鯖、定食メニューなら野菜炒め定食という荒井さんに色々聞いてみました。(聞き手 木暮栄一)

ーソロ制作の方はどう?

「いまちょうど佳境に入ったとこで、今回はなかなか良い感じなんじゃないかと…『今回は』とか言うと前作が駄作だったみたいだな…『今回も』良い感じです!」

ーバンドのアルバム作って間を置かずにソロ制作ってけっこう大変じゃない?

「まあ、そんな流れで雪崩式に突入したのが逆に良かったかも。アタマが作るモードのままだったから」

ーちょっと聴かせてもらったけど、その曲はブラック・ミュージック的なアプローチだったね。

「聴いてもらった2曲は三浦さんプロデュースのやつで、たまたまかな。他の曲はまたちょっと違って、例えばこういう…(iPhoneで曲を流す)…ちょっとサザン的なやつとか。ソロで作る曲って暗い曲が多かったんだけど、今回は暗い曲でもトーンは明るい感じっていうか…全体的に。その辺は前作と真逆かな」

ー(流れている)この曲はシティー・ポップ感もあるね……塾長のドラム良いな!塾長!

「フフフ、塾長最高ですよ……でも、the band apartっぽい曲は1曲もないかな」

ーその辺の曲のアイディアの振り分けみたいなのはどうやって決めてんの?

「そうだな……アレンジ面で言うと、例えば『エレキギターは使わない』とかあるけど。今回はエレキは使わないようにしようって製作中に決めて。代わりになるような音色は三浦さんの鍵盤がやってくれるとこもあるから。まあ、そういうわかり易いところを別にしても、曲調だったり歌詞だったり、自分の中では作り方がかなり違うんだよね、特に今回は」

ーじゃあ逆に荒井から見て、the band apartっぽい曲とかアレンジってどんなイメージ? ”KIDS”を作ってる時に『うちのバンドの典型みたいなアレンジにしたい』って言って作ってたじゃん。

「うーん……例えば、一般的な曲に比べると変な間奏が入ってくるとか、『おや?』っていう展開があるっていうのが、うちらの王道パターンなのかなとは思うけど……”KIDS”は、あえてそういう感じを意識して作った記憶があるね、確かに。でも、コード進行やメロディーで言うとなんなんだろう……あんまりわざとらしくないメロディーを付けよう、とかかな」

ーわざとらしくないメロディー……

「大げさすぎない感じというか。抑揚はあるんだけどシュッとしてる感じ……なかなか説明が難しいけど。その辺はソロだとあんまり考えない部分だね。今回のアルバムで言うと”雨上がりのミラージュ”なんかは、ソロの作風に近いように見えるかもしれないけど、実は全然違って。ソロでやるなら、ああいうサビや展開にはなってないと思う」

ーサビで落ち着く感じとか?

「そうだね。リフっぽい間奏なんかも、ああいうのはthe band apartでしかできない感じ……成立しない部分だね、俺の中では」

ーアイディアっていうより、作り方のほうが根本的に違いそうだね。

「そうかもね」

ーなるほど。じゃあ次の質問。”Memories to Go”を作るにあたって何かビジョンみたいなものってあった?こんなアルバムにしたいとか。

「ビジョンってほどでもないけど……まーちゃんの曲に期待、みたいなところはあったかな」

ーへー!どういうこと?

「まーちゃんの曲がリード曲になったら良いんじゃないかなっていう漠然としたイメージ。『統一感がありつつも、四者四様の作風がある』ていうのがうちのバンドの強みだと思うんだけど、ここ何作かは俺か栄一の曲がリード曲ってパターンが続いたから、新鮮さっていう意味でもそうなればいいな、とは思ってたね。まあでも、それはまーちゃんの『こういうのが作りたい』って気分もあるだろうし、俺が何を言うわけでもなく」

ーJUSTICE (アジアンゴシックのマネージャー)に言わせれば『原さんは眠れる虎』らしいからね。

「ははは、なんで勝手に眠らせてんだよ」

フフフ、ナチュラル・ボーン・失礼な奴だからな、あいつは。 ……では時系列的に荒井さんが元ネタ持ってきた曲について聞いていこうと思いますが、最初に録音したのが”Find a Way”だよね、たしか。

「そうだね。新曲の中でも最初にライブでやってるし、なんとなくライブ映えする曲になったのかな、と思う」

ーすげー難しい、ってわけでもないしね。

「作るにあたって二転三転はしたけど、結果的に隙間があるパートもあれば、込み入ってるところもあって、まあなかなか良いバランスの曲になったんじゃないかっていう」

ーイントロ〜Aメロとか、何度か皆でセッションしたりしたよね。録音序盤にはまだそういう心の余裕が……

「あったね。イントロのリズムに合わせてベースを考え直したり、間奏の川崎のソロなんかはその場でインプロで弾いてもらって一発OK、みたいな。サビのコーラスもまーちゃんと色々なラインを試したし、みんなで作った感は強いかな。……けど、『この曲をリード曲にはしないで欲しい』とも思ってて。それだとまた同じパターンの見え方になっちゃうと思ったから、外から見たときに」

ーなるほど。

「だから、『ライブでよくやるアルバム中の1曲』って立ち位置になってけばいいかなと」

ー”She is my lazy friend”はどう?これも新代田で演奏してるから序盤にできた曲だけど。

「この曲のイントロのリフは”Find a Way”のAメロ考えてたときにできたんだけど、『これは別の曲になりそうだな』って思って(Find a Wayには)使わなかったんだと思う」

ーこういう80sポップス/ハードロックみたいな雰囲気って、狙って作ってるわけではないよね?なんとなく弾いててこういうアイディアが出てくんの?

「うーん、まあ自分ではよくわかんないけど、そういう時期の映画をけっこう観てきたから、そこで流れてた音楽、雰囲気とかやっぱり好きだし……原体験的なものがスッと出てくる年齢なのかもね。けど、これもサビとかみんなでセッションしながら作ったよね?」

ーあれ、そうだっけ。

「昔の、the band apartの最初のデモ・テープに入ってた曲のメロディー使ったりとか、そういうアイディアを皆で出し合ったと思う。その中でアウトロの前に大サビを付けようって話もあったけど、まあそれはちょっとくどいなって思って今の形に落ち着いたという」

ーちょっと洋楽っぽい構成にもなってるよね。最近の流れで言えば『コンパクト=今風』らしいし。

「そうなの?良い感じにまとまったとは思うけど……今風なコンパクトさなのかどうかは全然わかんないす、ははは」

ーリッキー(24歳 / アジアンゴシック・スタッフ)が言ってたよ、『今の若者はYouTubeとかネットで音楽探すから最初の1分が勝負です』。

「まあ、そのくらいでサビが来る曲は俺も好きだけど……」

ーフフフ、その辺を狙って作ってるわけでは……

「ははは、ないね、残念ながら 。全く時代を読めてないね」

ーじゃあ、最も歌詞が難航したと言われている”雨上がりのミラージュ”。

「まあ、今回唯一の作詞だったから……難しかったのは、やっぱり英語と日本語の混ぜ方とバランスかな。それを上手くやりたかったっていうのもあるんだけど。ソロと違ってthe band apartの時は、あんまりストレート過ぎる表現はダメだなっていうのが自分の感覚としてあって。言葉選びや言い回しをもう少し小粋にしたい、みたいな」

ー英語を混ぜようと思ったのは?

「うーん……”夜の向こうへ”を作った時、当時はあの曲の歌詞みたいな表現の仕方が聴き手を選ばない書き方だと思ってたんだけど……今は、あれはあれで逆に感情移入しにくい部分もあるのかなって考えてて。それでこう……もう少し聴いてくれる人との距離が縮まる方法って何かな?って思った時に、英語混じりにしたらどうかっていう。あえてポップス的なわざとらしさを取り入れてみようと思った」

ー90年代的な匂いもあるよね。

「そうだね。個人的にはそういう日本語/英語の混ざった歌詞の響きに親近感とかノスタルジーを感じるところもあるし、変な照れもなくなったからかな」

ー俺の中ではリード曲になりそうな感じもあったんだけど。

「そうね……今回のアルバムが『”雨上がりのミラージュ”とその仲間たち』だとあんまり腑に落ちない感じがしない?もちろん良い曲だとは思うけど、アルバムを象徴する曲かって聞かれたら 違う気がするし、俺の中では。その辺りのこと(リード曲/MV曲の選定)
を今回スタッフに全部任せたのはよかったんじゃないかな」

ー じゃあ他の曲の印象も少しずつ聞いていこうかな。”intro”から”ZION TOWN”。

「”intro”……フフフ、なんだろう、始まる前に”気持ち”を作ってもらうみたいな?まあ、このフレーズがいつか曲になるだろうっていう。”ZION TOWN”は、俺が思う世間的なうちのバンドに対するイメージに、良い意味で応えるような曲だよね。色々なキーワードが集約されているというか」

ー”Castaway”。

「この曲は……いつもとは違ったベクトルの演奏の精度が必要だから難しい。ギターは同じことを繰り返しながら、メロディーは結構自由で……そのリズムが分離してると慣れるまでは結構難しいんだよね。まだ合わせてないからわかんないけど、たぶん……難しいね!けどやります!ははは!」

ーははは、なんかすいません。じゃあ”BOOSTER”。

「これもけっこうバック・トラック感のあるアプローチだよね。鍵盤でやるようなことをギターに置き換えてあるっていうか。ギターって意外とコード・チェンジの瞬間とかに曖昧なニュアンスがある楽器だと思うんだけど、逆にそこを曖昧にできない感じがあって新鮮だよね。この曲は序盤に作ってたから、サビや間奏のコード進行をけっこう二人で練った記憶があるな」

ー鍵盤の響きだと気にならない不協和音がギターだとすげー気になる、みたいなのを直してもらったよね。……続いて”Super High”。

「フフフ、この曲はかなりの紆余曲折を経て……元ネタを持ってきた川崎も大変そうだったし」

ーサビを7拍にするアイディアとかメロディーは荒井だよね。

「一応。ただ7拍にしたことでメロつけるのがすげー難しかった……何個かボツにしたし。アウトロのギターも俺的にはなかなか難しくて、これも合わせるのが怖い……いや, 楽しみです、ははは」

ーそして”お祭りの日”。これもAメロは荒井さんに手伝ってもらって。

「うちらのレコーディングみたいに、作者が同じコード進行を何百回もループで聴きながら『明日までに作らねば…』って感じでやってると、できないときは本当ドツボにはまるじゃん? その点この曲のAメロは……自分ではあまり使わないコード進行っていうのもあって、割と新鮮な気持ちでメロディーをつけられたかな。サビにも上手くつながったし」

ー仮歌詞は英語で『Sunday Night, Monday Night……』みたいな感じだったけど、結局日本語になったっていう……。

「ははは、『まつり、まつり』のとこね。木暮さんの新境地なんじゃないすか?……さっき”雨上がりのミラージュ”のときにちょっと話したけど、『Sunday Night』より『まつり』の方が親近感は強いじゃん?誰にでもわかるっていうか。だから必然性のある『まつり』だよね。サビとの対比も良いと思うし」

ーフフ、”必然性のある『まつり』”って良い響きだな。……じゃあ”38月62日”

「すごく良いよね。個人的に今回一番グッときた曲かな。最近のまーちゃんの作風の集大成の一つみたいな感じがして。かなり凝ったコード選び/進行なんだけど、あからさまに難しく聴こえないし、切ない雰囲気でありつつ感傷に浸りすぎてはいない、っていうバランス感がさすがだなと思います」

ーでは最後に、今作を録音してて、個人的に荒井の歌のスキルアップを感じることが何度かあったんだけど、自分ではどう?

「……ここ何年かバンド以外でも色々な経験をさせてもらって、まあ色々やり散らかしてきたんだけど、ようやくその回収作業に入り始めたというか……フフフ、すげー漠然としてるな」

ー散らかしたものの回収作業……

「ははは、意味わかんないよね。まあ色々経て、例えば『このメロディーはどう歌ったら曲としてより良くなるかな?』とか考える余裕が少しできたというか。昔は、それこそギターも歌も一杯一杯だったから……そのギリギリ精一杯で歌ってた感じが良いって言われることもあるけど、そういう喉の使い方は、少なくとも俺にとってはいつまでも出来るものじゃないなっていうのもわかってきたし」

ーなるほど。

「そういう……体に必要以上の無理をかけないで、自分の意図した抑揚が乗せられる歌い方を、何となく掴みかけてる感じ。『あ、これかな?』みたいな」

ー個人的な見解だけど、今の俺らのやってる音楽には、最近のその歌い方がフィットしてるんじゃないかな。

「そう思いたい、っていう感じです」

ーじゃあ、次作はいよいよ全編スキャットにトライですな。

「……いつかやってみたいけどね、ははは」

ーありがとうございました。

(2017年7月20日 AGスタジオにて)