Diary
2016.9.23村田シゲ(□□□)特別インタビュー
□□□ feat. the band apart 「前へ」……この男がいなかったらリリースまで至らなかったかもしれません。というわけで、わりとマルチなベーシスト・村田シゲ に色々聞いてみました。(聞き手 木暮栄一)
ー ”クレメンタイン” が好きだって言ってたよね。
「昔からなぜか ”物事が崩れる瞬間” に魅力を感じるんだけど、クレメンタインのメロディーの繊細さって……俺らが子供の頃に”風雲たけし城”ってあったじゃん?」
ー うん。
「その中のステージの一つで、池に点々と置かれた浮き石を渡っていくっていうのがあって、固定された石とフェイクがランダムに入り混じってる中を挑戦者は上手く渡っていかなきゃ行けないみたいな。もしフェイクの石に乗っちゃったら失敗して水に落ちるのはほぼ確実なんだけど、たまにそこを奇跡的に渡り切っちゃうヤツがいて、見てるスタッフも『おお!!』ってなったりしてて……クレメンタインはそんな感じの曲だよね」
ー あはは、マジ?
「フェイクの石に乗っちゃって、これは落ちるか?っていう危うい場面を勢いで乗り切っていくっていう。崩れそうな緊張感を持続しつつ、それ故のカタルシスもあるし……あと最後のサビの歌詞でさ、何度か”生きたい”ってフレーズ出てくるでしょ。あの言葉選びも凄く好きかな。あそこまで”生きたい”って言い切る歌、なかなかないじゃん」
ー まーちゃん節だね、その辺は。
「そういう今まで聴いたことがない歌詞が乗ってる曲ってのは、俺の人生の中では意味のある曲になるんですよ。もちろんメロディーとかコード進行も大いに関係してくる話だけど、それでも流し聴きしてて言葉が引っかかりになることもあってさ。『いま何て言った?』っていう違和感……その未体験な感覚と芸術性が両立してるような曲を好きになることが多いかな」
ー 歌詞のテイストは少し違うけど、□□□の『聖者の行進』(作詞作曲 村田シゲ)と雰囲気が似てるんだよね、俺の中では。同系色っていうか。
「うっとうしいことを言うなら、マイナー7thフラット5が出てくるっていう……」
ー フフフ、リアルな話だな。
「まあ、そういう響きが好きなんだろうね」
ー そんな村田さんが、実は今回の『□□□ feat. the band apart』制作の影のフィクサーなんじゃないかって話になって、こうしてインタビューとかしてるわけなんですが。
「そうなの?……まあでも、ここ何年かのうちに凄い勢いで仲良くなったことは確かだよね」
ー 俺とコーシでいくつか取材受けてる時に気付いたんだけど、そもそも今回のリリースのきっかけを俺もコーシもよくわかってなかったという……始まりって何だったんですかね。
「…… 俺の認識だと、川崎に『アジアンゴシックから音源出さないか?』って言われたのが始まりだけど、荒井のソロ・ツアー(*村田シゲは荒井岳史バンドのサポート・ベーシストでもある)の時に、カケ(アジアンゴシック・マネージャー)からも軽くそんな話をされたかも。二人とも『レーベルに新しい血を入れたい』とかもっともらしいことを言ってたけどさ、俺の予想では the band apart のライブやリリース以外にもレーベル的な動きを活発化させたいって考えた時に、『そういえば忘れてたけど、あいつら一応ミュージシャンなんだよな』って思い出してもらえた……ってことなんじゃないか、単純に」
ー あはは、そうなんだ。
「『あはは、そうなんだ』って、お前の会社の話じゃねーか」
ー でも、そこからあの西新宿の決起集会につながっていくんですね。
「貝の店ね」
ー そうそう。feat. the band apart ってアイディアもその時に何となく出てたよね、貝を肴に日本酒飲みながら……良いね、最高。
「日本酒と貝はマジでどうでもいいけど……けっこう前に□□□で、LOSTAGEと8otto × □□□みたいな、お互いの曲を混ぜて一曲にしちゃうっていうのをやったことがあって。で、今回のオファーをもらったときもそんなイメージがすぐ浮かんで……ていうかまあ、単純に楽しそうな面子だなと」
ー LOSTAGE / 8otto の時はどんな曲作ったの?
「そのときは、あいつらのギターとか全部コピーして□□□の曲とつなげるっていう……」
ー コピー、って録音データをエディットしたってこと?
「いや、耳コピ」
ー あはは、マジで?……フフフ、それは病的な作業だね。
「毎日PCと向き合いながら……まあでも、そういうのあんまりないじゃん、既存の曲をつなげて一曲にしちゃうみたいなさ。自分がやったことない事って面白いで しょ。□□□にいとうせいこうがいるっていうのも『それ面白い!』ってノリの延長だと思うし、三浦さんも基本的に ”面白ければ何でもいい” って人だし」
ー □□□って変なバンド……バンドっていうか、変な集団だよね。
「まあ、一般的なイメージで言う ”バンド” ではないかもね。リハーサルスタジオで新曲作る、なんてこともないし、そもそもライブも年に数回しかやってないし。だけど、メンバー3人の行動範囲で言えば俺が一番バンド界隈にいるから、そこで出会った面白いヤツを、三浦さんやせいこうさんにつなげてみたり……それこそさっきのLOSTAGE / 8ottoとか。あの経験があったから今回の『前へ』に向かう流れも比較的スムースだった気がする。影のフィクサー感が出てるんだとしたら、そういうとこで色々動いてるからかもね。まあでも、出会いの場を作ったのが俺ってだけで、川崎と三浦さんなんて勝手にどんどん仲良くなってんじゃん」
ー 『熊枠』もあるし、ある意味シゲはコネクター……いや、ハブ?かな?ハブ的な役割を……
「”ハバー” だね」
ー ”ハバー”か。フフフ……ハバー村田。
「面白いヤツと面白いヤツを引き合わせると、単純にウケるじゃん。そういう場を増やしたいだけって感じかな。見てて自分も楽しいし」
ー そういうハバーな一面とは別に、ライブの練習でスタジオ入ってる時とか演出家みたいな意見を言うことがあるかと思えば、皆のスケジュール確認とかもやってたり。仕切り役だよね、以外と。
「……□□□はわりと役割分担が決まっててさ、俺も曲は書くけど、メイン・コンポーザーと言えばやっぱり三浦さんなわけじゃん。それで楽曲制作以外の、例えばライブだったりスケジュール面だったりを俺があれこれやってるから、そんな感じに見えるんじゃない」
ー 今回の『前へ』制作でも、うちのマネージャーがずいぶん頼りにしてましたよ。
「それは君んとこのマネージャーに問題があるんじゃないすかね」
ー まあ、そんな村田さんの暗躍もありつつ完成した今回の『前へ』ですが、一番好きな曲はどれですか。
「個人的に?……だったら2曲目の”前へ”かな」
ー LIl Eがラップしてると言われている……
「あの曲が一番ワクワクしたかな。他の曲はある程度、デモの時点からの俺の想像の範囲内だったっていうか……細かく言えば、1曲目の”板橋のジョン・メイヤー”は、はっきり言って演奏とかどうでも良くて、あの雰囲気とサビの合唱が全てじゃないですか。俺らの関係性を上手くデフォルメしてる感じもあるし」
ー うん。
「で、”神話具現”は、バック・トラックの構成とかエディット感はいつもの三浦さん+メロディアスなコード進行+原の歌声が新鮮ていう。ある意味一番スタンダードなコラボレーションの形っていうか」
ーそうだね。イメージはしやすい感じかも。
「”スニーカー”は、普通の人からしたら『□□□ feat.〜』のはずなのに川崎が弾き語ってるだけで何にもしてねーじゃん□□□のメンバー!……って感じじゃん?」
ー ははは、そうかな。
「別に貶してるわけじゃなくて、川崎&三浦のバイブスの高さがあってこそのあの形だと思うし、今までやったことないスタイルに挑戦してもらうっていうこと自体に価値があるわけじゃないですか。わかりやすく泣ける/感動する、って曲ではないけど、□□□サイドからしたら、何か新しいことをやる瞬間っていうのはそれと同等の価値があるって考えてるから、その意思表示でもあるし」
ー なるほどね。
「その中で ”前へ” は俺の予想してなかったハプニング感があったんだよね。まず思ってたよりLil Eのラップがちゃんとしてた」
ー ……昔取った杵柄ね。もうずいぶん昔だけどな。
「それとやっぱり、いとうさんのラップだね。”前へ” っていうテーマが、俺らのある意味ひねくれたユーモアに拠ってるってこと、あの人だけ知らなかったわけじゃん。だから当然のようにそのテーマに真正面から向き合って書いた歌詞っていうかさ。熱いよね」
ー トラックもカッコいいしね。ちょっとオリエンタルで。
「そうそう。デモの段階で聴いた時も『トラック良いじゃん』って思ってたけど、ラップが乗って、それに合わせて展開も変わって予想外に化けた……ってとこで、やっぱりこの曲が一番グッと来たかな」
ー レーベルとしては次作も見越しての今作なんだけど、その辺はどう?
「おたくのマネージャーにもう何回も言われてるよ。『次のはいつ出しますかね』『シゲさん次はいつ出しますかね』『シゲさん次は』って、何回もな」
ー 個人的には村田シゲの作った曲も聴いてみたいですね。
「フフフ、頑張ります」
ー これは俺が勝手に考えてるだけだけど、ビースティー・ボーイズがやってたグランド・ロイヤルってレーベルあったじゃん? あのくらい振り幅のあるリリースをこれからしていけたらいいなーと思っててさ。□□□はその第一弾的な……まあ、グランド・ロイヤル、潰れたけどね……。 でも、シゲもそうだと思うけど、面白いことをたくさんしたいじゃないですか、やっぱり。
「そりゃそうでしょ。逆にそうじゃないヤツなんているの?」
ー あはは、さすが。そうやって自分の感覚を拠り所にして、既存の何かをさらっと飛び越えてる感じとか、まーちゃんとちょっと似てるよね。
「そうなの?わかんないけど……まあ、極論を言えば音楽じゃなくてもいいんだよね、俺の場合。ミュージシャンって面白いヤツがいっぱいいるからこの界隈に居続けてるとこもあるから。例えば映画だって面白い作品いっぱいあるし、ゲームでも演劇でも何でもそうじゃん。自分が演奏してる間にも世界は動き続けて、面白いこともそうじゃないことも色々たくさん起こってるわけじゃないですか。そんな中で、じゃあ自分はどこにいたいかって言ったら、なるべく面白いものが見れ るところにいたいし、そこに加担していたいっていう」
ー なるほど。
「それと基本的に自分は何もできないって思ってるとこもあるんだよね、別に自己卑下とかじゃなく。まあ、ある程度ベースが弾けたり、多少は得意かな?って思える部分もあるけど、やっぱり自分に音楽の才能があるなんて全然思わないし。音楽やバンド、すごく好きだけどね。だからこそ、そこにこだわり過ぎないようにしてるのかも」
ー 端から見るとそんな風には見えないけど、わりと諦念的なところがあるんだね。あきらめから始めるっていうか。
「だって、自分の『面白い/面白くない』が世間のそれと一致するとは限らないじゃないですか。『良い曲はいつか売れる』とか言ってるヤツがいたら、本当にいかれてると思うしさ……って何か偉そうなこと言ってるけど、どうなんだろうね」
ー あはは、どうなんだろうね。
「でも諦めから始まってる、ていうのは正解かも」
ー だからどんな場でも明るく居れるんじゃない?基本的に期待しないスタンスだから。
「まあ、でも……期待してないって言っても、他人から見たら『俺の作ったカッコいい音楽を是非聴いて、そして金をくれ』って職業なわけでしょ、ミュージシャンって。『は?』って話だよね、あははは」
ー ははは、元も子もないことを。
「フフフ……あと、最近ひまつぶしにネットで知らないミュージシャンのインタビューとか読んでさ、すげー良いこと言ってるし、俺が好きなアーティスト名とか引き合いに出してるし、そういう記事の内容からある程度の音楽性を想像して、期待しながらyoutubeでそいつのMV観て……そしてキレてる」
ー あはは、つまり文章から色々期待し過ぎちゃうってことだよね。
「そう。だから、一概に物事に期待してないわけではないんだよね……って何の話だこれ」
ー 期待していないと言いつつ期待してしまう……そういう、ちょっとひねくれたが故の感動中毒っぽいところも、まーちゃんと似てますね。
「わかんないけど、クレメンタインは他の曲より二割増しで好きだと思う」
ー ちなみに感動した瞬間って泣いたりすんの?
「泣かないね。むしろ笑っちゃう」
ー そこはまーちゃんと逆なんだね。
「それは本当にどうでもいいかな」
ー ありがとうございました
(9月18日 New Acoustic Camp バックヤードにて)