Diary

2013.4.20日記

ハワイアン・シックスの衝動を浴び、リリカルでいつもより少しリラックスしたムードのサオリリスと話した翌日、FLAKE RECORDSで新譜を何枚かピックアップしてから電車で福岡へ。車内で最近自分が聴きがちな音楽の傾向について少し考えていたら、何時の間にか眠ってしまった。

福岡ではルイ・ハシモトとアシスタントのあやちゃん、ツンツン丸と合流して警固のカフェバー・トレソルへ。カズオちゃんがテキーラを持ってきてしまい、結局酒に飲まれる。年中働いているように見えるルイは、流石に疲れているのか途中で潰れてしまった。そんな彼を見送りつつしつこく飲み続け、帰宿したのは4時過ぎだった。

起きてからルイの写真展に少しだけ顔を出して、一日中取材を受ける。インタビューの答えは常にフリースタイル!なので、虚実入り混じる感がなくもないのだが、この日は音源を聴き込んで来てくれたインタビュアーばかりだったので、様々な解釈が聞けて楽しかった。ありがたいことです。音楽は最終的に聴き手のものだしね。

今はツアーの初日でもある四国・松山での取材を終えて、東京へ戻る途中『しおかぜ 28号』の六号車 7A席に座っている。さっきまでワタナベさんがくれた『美食倶楽部』を読みながら、こんな小粋な店に行くとしたら誰と行ってどんな話をしてやろうか?と妄想に耽っていたんだけど、そういえばDUKEのACOちゃんともそろそろ十年近い付き合いだなー、と何となく本から目を上げる。車窓には寂しいような懐かしいような趣きのある風景。夕日を反射する瓦屋根の向こうには影色に染まっていく山肌が見える。MOCK ORANGE の End of the World が流れる17時42分。元気でやってるかな。

岡山から乗った新幹線はスーツ姿の男達でひしめきあっていた。隣の席のサラリーマンは握り寿司弁当と缶酎ハイで一杯やっていたが、食べ終わるなりすぐに寝てしまった。京都を過ぎる頃には車内の半分以上が眠っているようだった。働く男達は皆疲れているようだ…。しばらく呆けてから煙草を吸いに喫煙所に入ると、右と左に異国の人。空いている灰皿は2人の真ん中だけだったので、両脇に初老の白人男性を従える形で煙草に火をつける。小窓に夜景が流れる静かな喫煙室。真の愛煙家に言葉はいらない、男は黙って煙を燻らせていれば良いのさ。人生はまるで煙のよう……突然右隣の奴が「ゲッテルフンケン(適当)」と叫び、左側の奴が「シュトックハウゼン(適当)」と応じる。堰を切ったように激しい議論を始める2人。大人が3人並ぶのが精一杯の窮屈な喫煙所である。突然のことに石地蔵化した僕を挟んで、怒声に近いドイツ語(たぶん)が遠慮なしに飛び交う。ムムム何だこの状況は…と数瞬まごついたが、つまり僕という闖入者が現れる前まで、2人は何事かを熱く話し合っていたのだろう。しばらくは呆けた面の日本人に気を使って黙していたが、耐え切れずにまた口火は切られたのだった。再開された言葉のボクシング。喫煙スペースはあっという間に白熱教室に。強制入学を余儀なくされた僕は夜景と愛煙どころか、定期的に煙を吸い込んでは吐き出す人型の機械、スモーキング・モヒカン・マシーンと化していた。イヤフォンから流れるDJ Rashad。32分音符のキックには衝動が、ループされたサンプルにはソウルが煌めいている。マシーン・ミュージックとドイツ語(たぶん)。煙草が美味いなんて脳の錯覚、中毒とはそういうものだ。やめられない止まらない。カルビーカッパえびせんだ。カッパって何だよ。そして一瞬自分がどこにいるのかわからなくなる。

数時間後、東京駅から乗り換えた金曜日の丸ノ内線終電車は大混雑だった。立ったまま寝ている酔いどれた姉ちゃんや疲れきったジジイその他に激しく寄りかかられながらスタジオへ。荷物を置いたカケが車で送ってくれたのだった。家の布団最高。
おやすみ。