Diary
2017.8.3“Memories to Go”リリース・インタビュー No.02 川崎亘一
海釣りの日焼けがとても痛そうな川崎さんに色々聞いてみました。(聞き手 木暮栄一)
ーモズライトっていま何本持ってんの?
「え?……6本……かな」
ー the band apart の初期は、歪んだギターでロック的なアプローチをする曲も割と多かったと思うんだけど、そこであまりそういうイメージの無いモズライトを選んだ理由って何?
「……見た目のカッコ良さ。見た目がとにかくカッコ良い、それだけの理由」
ーそうなんだ。それで使ってみての第一印象は?
「使いづらいなーって思った。だからバンド界隈のヤツは誰も使ってねーんだろうなって。まあ、それで逆に使いこなしてみたい、とも思ったけど」
ー親父さんが昔使ってたんだっけ?
「そう。でも親父のギターは壊れてたから、最初のシングル(Fool Proof)の印税で新しいのを買ったんだよね。だからファースト・シングルだけフライング・Vで録ったのかな。……その後の “K (and his bike)”のレコーディングの時は全然思い通りの音が作れなくて……試行錯誤しながら、現在に至るっていう」
ー使ってるアンプとかも含めて、目指してる音ってどんなイメージなの?
「……シンプルに言うと『ローファイな感じ』かな。あんまり綺麗な音にはしたくない。今の機材って、どんなギターで鳴らしてもある程度クリアーで解像度の高い音が出るアンプとかエフェクターだったり、そういうベクトルのものが多いと思うんだけど、正直誰が弾いても似たような音になっちゃうよな、って俺は思ってて。昔、俺が好きで影響を受けたバンドってそうじゃなかったから。まあ、時代とか録音の状態/環境もあると思うけど」
ーだけど、一般的なところで言う『良い音』ってクリアーな音質のことだよね、たぶん。
「そういう音も聴く分には聴きやすくて良いんだけど、すぐ飽きちゃうっていうか。あんまり自分の印象には残らないことが多いかな」
ーそういった意味で好きな音のバンドって、例えば?
「うーん……誰だろう……まあ、これは録音された時代的な要素もあるんだろうけど、(レッド・)ツェッペリンとかイエスは、こんなにペラペラな音なのに何でカッコいいんだろうってずっと思ってた。……あとパッと思いつくのはモック・オレンジかな。すげー『ペラい』音だよね。」
ーははは、『ペラい』ってどういうこと?
「自分でも説明が難しいけど……その場の空気ごと録音してある、みたいな。凄く雰囲気のある、そういう質感の音」
ーなるほどね。その感覚は”Memories to Go”にも反映されてんの?
「うーん、どうだろう。わかんない」
ーじゃあ、アルバム制作にあたって何かイメージとかはあった?
「全然ない……なかった。『良い曲を作ろう』くらいかな」
ーフフフ……今回は川崎さんが作曲で煮詰まってる場面もけっこうありましたね。
「……そうだね。昔みたいにパッと思いつかないし、思いついてもイマイチ決めきれない、って言うのが続いたね」
ー”Super High”なんて最初は全然違う感じだったし。
「序盤のセッションからはかなり変わったな……つなげようと思ってたリフとかコード進行が噛み合ないことが多くて、それも時間がかかった理由かも」
ーあんまり思いつきで決めてくタイプじゃないよね。
「そうだね。なかなか自分の中で確信を得るのが難しいっていうのもあるし、時間的な制約がなかったら(同じフレーズを)ずっといじっていられるっていうか」
ー難航した結果できた”Super High”の手応えはどう?
「……まあ、良い感じにまとまったと思う。当初の予定とは全然違う曲になったけどね。……最初はもっとダークで土臭いロック、みたいなイメージだったんだけど」
ーダーカー・ザン・ダークネス的な……
「(無視して)……だけど曲の構成がある程度できた時点でまーちゃんに聴かせたら、『昔のダンス・ミュージックっぽいじゃん。アンダーワールドみたいだね』って言われて……『えっ』っていう」
ーフフフ……
「それで、一回ワケわかんなくなって……『そういう方向にアレンジしたら良いのか?』と思って、YouTubeでアンダーワールド聴いてみたり……」
ーはははは、アンダーワールド感はゼロだけどな。でも結果的に面白い曲になったんじゃない?アウトロとかライブ映えしそうな感じだし。
「そうだといいけど」
ーじゃあ、他の曲の感想、ギター的なアレなどを聞いていきますね。まず “intro〜ZION TOWN”。
「”intro”は……イントロっぽい。ギター的な感想っていうことなら、これ俺のギター入ってないしね。……ZION TOWNは、録る時に『果たしてここはAメロなのサビなのか』みたいに、全体像を知らないまま部分的にフレーズを弾いていって、完成したのを聴いてみて初めて『こういうことだったのね』って腑に落ちるという。最近のまーちゃんらしい曲だよね」
ー”Find a Way”。
「そうだな……うちらっぽい曲だし、わかりやすい良い曲っていう印象かな。プレイ的にもそんなに難しいフレーズがないから、ライブで(演奏が)まとまりやすいかも」
ー”Castaway”。
「まあ、これに限ったことじゃないけど、元ネタ持ってきた奴の個性がけっこう出てるよね。この曲の俺のパートはやってることがシンプルな分、エフェクターの設定とかシビアにやんなきゃダメそうだけど、ライブの時に音源とはまた違ったカッコ良さが出せれば良いなと思う」
ーアウトロのソロは即興で録ったよね。
「そう……だっけ?フフフ」
ーでは”KIDS”。
「ああ、これね。これはけっこう……良いギターの音が録れたかな、自分の中では。フレージングと機材、あとアンプやマイクの位置とかが上手くハマってくれて。かなり好きな感じの音で録れた……あと、やっぱりモック・オレンジを思い出すね」
ー”雨上がりのミラージュ”。
「すごく荒井っぽい曲だよね。この曲はデモがあったから、間奏のギター・ソロもなるべくデモに入ってたやつを踏襲して雰囲気を壊さないように気をつけたかな」
ーうちのバンドって、かなりの頻度で間奏にギター・ソロが入ってくるけど、それって川崎的には「またソロか……」とか思ったりするの?
「いや、それは別に思わないよ。その曲の中で一つのスパイスになるなら、いくらでも弾きますって感じ。やっぱり自分で曲を作ってても、ギター・ソロとかリフっぽい間奏があった方が、構成上の起承転結を作り易いし。……最近はけっこう『ここでソロお願いします』とか録音当日に言われたりもするけど、その短時間で出てきたものが『今の自分らしさ』ってことなんだろう……みたいな。まあ、簡単にできない時がほとんどだけど」
ーなるほどね。じゃあ “She is my lazy friend”。
「これは、アウトロが難しいね。まずソロの尺が長いし……音源だと自分が好きなスラッシュ・メタル・バンドの色々なフレーズをオマージュ的に弾いてたりするんだけど」
ーそうなの?全然わかんねー。
「聴く人が聴けばわかる程度に。だけど、ライブではCDの再現って言うより、もっと即興的な感じになる……なってしまうんじゃないかと」
ーあはは、即興、良いと思います。では次、”BOOSTER”。
「これも難しい……難しいっていうか、自分のやってこなかった要素がたくさんあって……まあでも、そういう新しいことに挑戦するのは俺も嫌いじゃないから」
ー鍵盤やアルペジエーターで作ったフレーズとか、色々全部作り直してもらったよね。
「そうだね。運指的に無茶な部分とか、ここはバリエーションつけた方が良くない?ってところを自分なりに直したり、逆再生ソフトで作ってあったフレーズなんかは、面白い感じになったんじゃないかな」
ーじゃあ”お祭りの日”。
「これは、サビで使ったエフェクターがライブで使えるのかどうかっていう。コントロールがすげー大変だからさ。昔の曲でも録音の時に使ってるんだけど、ライブだとタッチが繊細すぎてかなり使いづらくて……でも、この曲の象徴的な音色でもあるから、別のエフェクターを組み合わせて代用できるかどうか、これから色々試さないと」
ー”38月62日”。
「『まーちゃん』って感じの曲。ギターはけっこう歪んでてロックなのに、全体的には綺麗な印象っていうか……ビリー・ジョエルっぽい」
ーそうなの?
「まあ、俺もあんまりビリー・ジョエル知らないんだけど。子供の頃に流れてたCMでこんなのあったな、って錯覚するような……ビリー・ジョエル感。説明が難しいな」
ーちなみにアルバムって録り終わってから聴き直した?
「一応ね……何か、昔に少し戻ったような感じが全体の印象としてはあるかな。……自分のパートに関して言えば、『何やってるかよく覚えてない』っていう部分が……多すぎるね」
ーあははは、これからコピー祭りだね。じゃあ最後に、アジアン・ゴシック代表取締役として野望などあれば。
「野望……なのかどうかはわかんないけど、ここ一年くらいで考えてたのは、アジアン・ゴシックの会社としての可能性かな。例えば、仮に the band apart が終わるってなった時に一緒に終わってしまうのか、それとも続けていくのかどうか……新しいスタッフを入れてみたりして思ったのは、この会社を何らかの形で後世に残していくのも面白いんじゃないか、ってことで。もちろん簡単なことじゃないだろうけど、トライしていきたいなって思ってる」
ー昔、飲んでる時に『下赤塚にビルを建てる!』って宣言してたよね。
「フフフ、あれは単純に(スタジオの)家賃がなくなれば楽だなって思って。まあ、とにかく the band apart っていうものを切り離して考えた時にも、皆の拠り所としてアジアン・ゴシックっていう会社が何らかの機能を果たせるようになれば良いなって思う。最近は皆バンド以外にも色々活動してたりするし」
ー逆にそういう活動がレーベルにもフィードバックするような?
「まあ、それはそれで各々の考えがあるだろうから、これからみんなで話していけたらいいかな」
ーなるほど。
「あと、五味の兄ちゃん(LOSTAGE)がレコード屋をやってたり、忍さん(ASPARAGUS)が録音/マスタリングまでやってるのとか見てると、実際大変な部分はあるんだろうけど、『みんな頑張ってんなー』ってやっぱり刺激をもらったりするし」
ーそっか。具体的なアイディアはあったりすんの?……あっ『お茶漬け屋』?
「(無視して)具体的なアイディアはまだないけど……まずはスタジオの環境や設備を少しずつ改善していきたい」
ー例のロビーのフローリング化計画ね……ちなみに□□□をリリースしたのは、レーベル業務を活発化させよう的な思惑があったから?
「いや、あれはタイミングが合っただけだね」
ーありがとうございました。
(2017年8月1日 AGスタジオにて)
2017.7.24“Memories to Go”リリース・インタビュー No.01 荒井岳史
好きな魚は鯖、定食メニューなら野菜炒め定食という荒井さんに色々聞いてみました。(聞き手 木暮栄一)
ーソロ制作の方はどう?
「いまちょうど佳境に入ったとこで、今回はなかなか良い感じなんじゃないかと…『今回は』とか言うと前作が駄作だったみたいだな…『今回も』良い感じです!」
ーバンドのアルバム作って間を置かずにソロ制作ってけっこう大変じゃない?
「まあ、そんな流れで雪崩式に突入したのが逆に良かったかも。アタマが作るモードのままだったから」
ーちょっと聴かせてもらったけど、その曲はブラック・ミュージック的なアプローチだったね。
「聴いてもらった2曲は三浦さんプロデュースのやつで、たまたまかな。他の曲はまたちょっと違って、例えばこういう…(iPhoneで曲を流す)…ちょっとサザン的なやつとか。ソロで作る曲って暗い曲が多かったんだけど、今回は暗い曲でもトーンは明るい感じっていうか…全体的に。その辺は前作と真逆かな」
ー(流れている)この曲はシティー・ポップ感もあるね……塾長のドラム良いな!塾長!
「フフフ、塾長最高ですよ……でも、the band apartっぽい曲は1曲もないかな」
ーその辺の曲のアイディアの振り分けみたいなのはどうやって決めてんの?
「そうだな……アレンジ面で言うと、例えば『エレキギターは使わない』とかあるけど。今回はエレキは使わないようにしようって製作中に決めて。代わりになるような音色は三浦さんの鍵盤がやってくれるとこもあるから。まあ、そういうわかり易いところを別にしても、曲調だったり歌詞だったり、自分の中では作り方がかなり違うんだよね、特に今回は」
ーじゃあ逆に荒井から見て、the band apartっぽい曲とかアレンジってどんなイメージ? ”KIDS”を作ってる時に『うちのバンドの典型みたいなアレンジにしたい』って言って作ってたじゃん。
「うーん……例えば、一般的な曲に比べると変な間奏が入ってくるとか、『おや?』っていう展開があるっていうのが、うちらの王道パターンなのかなとは思うけど……”KIDS”は、あえてそういう感じを意識して作った記憶があるね、確かに。でも、コード進行やメロディーで言うとなんなんだろう……あんまりわざとらしくないメロディーを付けよう、とかかな」
ーわざとらしくないメロディー……
「大げさすぎない感じというか。抑揚はあるんだけどシュッとしてる感じ……なかなか説明が難しいけど。その辺はソロだとあんまり考えない部分だね。今回のアルバムで言うと”雨上がりのミラージュ”なんかは、ソロの作風に近いように見えるかもしれないけど、実は全然違って。ソロでやるなら、ああいうサビや展開にはなってないと思う」
ーサビで落ち着く感じとか?
「そうだね。リフっぽい間奏なんかも、ああいうのはthe band apartでしかできない感じ……成立しない部分だね、俺の中では」
ーアイディアっていうより、作り方のほうが根本的に違いそうだね。
「そうかもね」
ーなるほど。じゃあ次の質問。”Memories to Go”を作るにあたって何かビジョンみたいなものってあった?こんなアルバムにしたいとか。
「ビジョンってほどでもないけど……まーちゃんの曲に期待、みたいなところはあったかな」
ーへー!どういうこと?
「まーちゃんの曲がリード曲になったら良いんじゃないかなっていう漠然としたイメージ。『統一感がありつつも、四者四様の作風がある』ていうのがうちのバンドの強みだと思うんだけど、ここ何作かは俺か栄一の曲がリード曲ってパターンが続いたから、新鮮さっていう意味でもそうなればいいな、とは思ってたね。まあでも、それはまーちゃんの『こういうのが作りたい』って気分もあるだろうし、俺が何を言うわけでもなく」
ーJUSTICE (アジアンゴシックのマネージャー)に言わせれば『原さんは眠れる虎』らしいからね。
「ははは、なんで勝手に眠らせてんだよ」
フフフ、ナチュラル・ボーン・失礼な奴だからな、あいつは。 ……では時系列的に荒井さんが元ネタ持ってきた曲について聞いていこうと思いますが、最初に録音したのが”Find a Way”だよね、たしか。
「そうだね。新曲の中でも最初にライブでやってるし、なんとなくライブ映えする曲になったのかな、と思う」
ーすげー難しい、ってわけでもないしね。
「作るにあたって二転三転はしたけど、結果的に隙間があるパートもあれば、込み入ってるところもあって、まあなかなか良いバランスの曲になったんじゃないかっていう」
ーイントロ〜Aメロとか、何度か皆でセッションしたりしたよね。録音序盤にはまだそういう心の余裕が……
「あったね。イントロのリズムに合わせてベースを考え直したり、間奏の川崎のソロなんかはその場でインプロで弾いてもらって一発OK、みたいな。サビのコーラスもまーちゃんと色々なラインを試したし、みんなで作った感は強いかな。……けど、『この曲をリード曲にはしないで欲しい』とも思ってて。それだとまた同じパターンの見え方になっちゃうと思ったから、外から見たときに」
ーなるほど。
「だから、『ライブでよくやるアルバム中の1曲』って立ち位置になってけばいいかなと」
ー”She is my lazy friend”はどう?これも新代田で演奏してるから序盤にできた曲だけど。
「この曲のイントロのリフは”Find a Way”のAメロ考えてたときにできたんだけど、『これは別の曲になりそうだな』って思って(Find a Wayには)使わなかったんだと思う」
ーこういう80sポップス/ハードロックみたいな雰囲気って、狙って作ってるわけではないよね?なんとなく弾いててこういうアイディアが出てくんの?
「うーん、まあ自分ではよくわかんないけど、そういう時期の映画をけっこう観てきたから、そこで流れてた音楽、雰囲気とかやっぱり好きだし……原体験的なものがスッと出てくる年齢なのかもね。けど、これもサビとかみんなでセッションしながら作ったよね?」
ーあれ、そうだっけ。
「昔の、the band apartの最初のデモ・テープに入ってた曲のメロディー使ったりとか、そういうアイディアを皆で出し合ったと思う。その中でアウトロの前に大サビを付けようって話もあったけど、まあそれはちょっとくどいなって思って今の形に落ち着いたという」
ーちょっと洋楽っぽい構成にもなってるよね。最近の流れで言えば『コンパクト=今風』らしいし。
「そうなの?良い感じにまとまったとは思うけど……今風なコンパクトさなのかどうかは全然わかんないす、ははは」
ーリッキー(24歳 / アジアンゴシック・スタッフ)が言ってたよ、『今の若者はYouTubeとかネットで音楽探すから最初の1分が勝負です』。
「まあ、そのくらいでサビが来る曲は俺も好きだけど……」
ーフフフ、その辺を狙って作ってるわけでは……
「ははは、ないね、残念ながら 。全く時代を読めてないね」
ーじゃあ、最も歌詞が難航したと言われている”雨上がりのミラージュ”。
「まあ、今回唯一の作詞だったから……難しかったのは、やっぱり英語と日本語の混ぜ方とバランスかな。それを上手くやりたかったっていうのもあるんだけど。ソロと違ってthe band apartの時は、あんまりストレート過ぎる表現はダメだなっていうのが自分の感覚としてあって。言葉選びや言い回しをもう少し小粋にしたい、みたいな」
ー英語を混ぜようと思ったのは?
「うーん……”夜の向こうへ”を作った時、当時はあの曲の歌詞みたいな表現の仕方が聴き手を選ばない書き方だと思ってたんだけど……今は、あれはあれで逆に感情移入しにくい部分もあるのかなって考えてて。それでこう……もう少し聴いてくれる人との距離が縮まる方法って何かな?って思った時に、英語混じりにしたらどうかっていう。あえてポップス的なわざとらしさを取り入れてみようと思った」
ー90年代的な匂いもあるよね。
「そうだね。個人的にはそういう日本語/英語の混ざった歌詞の響きに親近感とかノスタルジーを感じるところもあるし、変な照れもなくなったからかな」
ー俺の中ではリード曲になりそうな感じもあったんだけど。
「そうね……今回のアルバムが『”雨上がりのミラージュ”とその仲間たち』だとあんまり腑に落ちない感じがしない?もちろん良い曲だとは思うけど、アルバムを象徴する曲かって聞かれたら 違う気がするし、俺の中では。その辺りのこと(リード曲/MV曲の選定)
を今回スタッフに全部任せたのはよかったんじゃないかな」
ー じゃあ他の曲の印象も少しずつ聞いていこうかな。”intro”から”ZION TOWN”。
「”intro”……フフフ、なんだろう、始まる前に”気持ち”を作ってもらうみたいな?まあ、このフレーズがいつか曲になるだろうっていう。”ZION TOWN”は、俺が思う世間的なうちのバンドに対するイメージに、良い意味で応えるような曲だよね。色々なキーワードが集約されているというか」
ー”Castaway”。
「この曲は……いつもとは違ったベクトルの演奏の精度が必要だから難しい。ギターは同じことを繰り返しながら、メロディーは結構自由で……そのリズムが分離してると慣れるまでは結構難しいんだよね。まだ合わせてないからわかんないけど、たぶん……難しいね!けどやります!ははは!」
ーははは、なんかすいません。じゃあ”BOOSTER”。
「これもけっこうバック・トラック感のあるアプローチだよね。鍵盤でやるようなことをギターに置き換えてあるっていうか。ギターって意外とコード・チェンジの瞬間とかに曖昧なニュアンスがある楽器だと思うんだけど、逆にそこを曖昧にできない感じがあって新鮮だよね。この曲は序盤に作ってたから、サビや間奏のコード進行をけっこう二人で練った記憶があるな」
ー鍵盤の響きだと気にならない不協和音がギターだとすげー気になる、みたいなのを直してもらったよね。……続いて”Super High”。
「フフフ、この曲はかなりの紆余曲折を経て……元ネタを持ってきた川崎も大変そうだったし」
ーサビを7拍にするアイディアとかメロディーは荒井だよね。
「一応。ただ7拍にしたことでメロつけるのがすげー難しかった……何個かボツにしたし。アウトロのギターも俺的にはなかなか難しくて、これも合わせるのが怖い……いや, 楽しみです、ははは」
ーそして”お祭りの日”。これもAメロは荒井さんに手伝ってもらって。
「うちらのレコーディングみたいに、作者が同じコード進行を何百回もループで聴きながら『明日までに作らねば…』って感じでやってると、できないときは本当ドツボにはまるじゃん? その点この曲のAメロは……自分ではあまり使わないコード進行っていうのもあって、割と新鮮な気持ちでメロディーをつけられたかな。サビにも上手くつながったし」
ー仮歌詞は英語で『Sunday Night, Monday Night……』みたいな感じだったけど、結局日本語になったっていう……。
「ははは、『まつり、まつり』のとこね。木暮さんの新境地なんじゃないすか?……さっき”雨上がりのミラージュ”のときにちょっと話したけど、『Sunday Night』より『まつり』の方が親近感は強いじゃん?誰にでもわかるっていうか。だから必然性のある『まつり』だよね。サビとの対比も良いと思うし」
ーフフ、”必然性のある『まつり』”って良い響きだな。……じゃあ”38月62日”
「すごく良いよね。個人的に今回一番グッときた曲かな。最近のまーちゃんの作風の集大成の一つみたいな感じがして。かなり凝ったコード選び/進行なんだけど、あからさまに難しく聴こえないし、切ない雰囲気でありつつ感傷に浸りすぎてはいない、っていうバランス感がさすがだなと思います」
ーでは最後に、今作を録音してて、個人的に荒井の歌のスキルアップを感じることが何度かあったんだけど、自分ではどう?
「……ここ何年かバンド以外でも色々な経験をさせてもらって、まあ色々やり散らかしてきたんだけど、ようやくその回収作業に入り始めたというか……フフフ、すげー漠然としてるな」
ー散らかしたものの回収作業……
「ははは、意味わかんないよね。まあ色々経て、例えば『このメロディーはどう歌ったら曲としてより良くなるかな?』とか考える余裕が少しできたというか。昔は、それこそギターも歌も一杯一杯だったから……そのギリギリ精一杯で歌ってた感じが良いって言われることもあるけど、そういう喉の使い方は、少なくとも俺にとってはいつまでも出来るものじゃないなっていうのもわかってきたし」
ーなるほど。
「そういう……体に必要以上の無理をかけないで、自分の意図した抑揚が乗せられる歌い方を、何となく掴みかけてる感じ。『あ、これかな?』みたいな」
ー個人的な見解だけど、今の俺らのやってる音楽には、最近のその歌い方がフィットしてるんじゃないかな。
「そう思いたい、っていう感じです」
ーじゃあ、次作はいよいよ全編スキャットにトライですな。
「……いつかやってみたいけどね、ははは」
ーありがとうございました。
(2017年7月20日 AGスタジオにて)
2016.9.23村田シゲ(□□□)特別インタビュー
□□□ feat. the band apart 「前へ」……この男がいなかったらリリースまで至らなかったかもしれません。というわけで、わりとマルチなベーシスト・村田シゲ に色々聞いてみました。(聞き手 木暮栄一)
ー ”クレメンタイン” が好きだって言ってたよね。
「昔からなぜか ”物事が崩れる瞬間” に魅力を感じるんだけど、クレメンタインのメロディーの繊細さって……俺らが子供の頃に”風雲たけし城”ってあったじゃん?」
ー うん。
「その中のステージの一つで、池に点々と置かれた浮き石を渡っていくっていうのがあって、固定された石とフェイクがランダムに入り混じってる中を挑戦者は上手く渡っていかなきゃ行けないみたいな。もしフェイクの石に乗っちゃったら失敗して水に落ちるのはほぼ確実なんだけど、たまにそこを奇跡的に渡り切っちゃうヤツがいて、見てるスタッフも『おお!!』ってなったりしてて……クレメンタインはそんな感じの曲だよね」
ー あはは、マジ?
「フェイクの石に乗っちゃって、これは落ちるか?っていう危うい場面を勢いで乗り切っていくっていう。崩れそうな緊張感を持続しつつ、それ故のカタルシスもあるし……あと最後のサビの歌詞でさ、何度か”生きたい”ってフレーズ出てくるでしょ。あの言葉選びも凄く好きかな。あそこまで”生きたい”って言い切る歌、なかなかないじゃん」
ー まーちゃん節だね、その辺は。
「そういう今まで聴いたことがない歌詞が乗ってる曲ってのは、俺の人生の中では意味のある曲になるんですよ。もちろんメロディーとかコード進行も大いに関係してくる話だけど、それでも流し聴きしてて言葉が引っかかりになることもあってさ。『いま何て言った?』っていう違和感……その未体験な感覚と芸術性が両立してるような曲を好きになることが多いかな」
ー 歌詞のテイストは少し違うけど、□□□の『聖者の行進』(作詞作曲 村田シゲ)と雰囲気が似てるんだよね、俺の中では。同系色っていうか。
「うっとうしいことを言うなら、マイナー7thフラット5が出てくるっていう……」
ー フフフ、リアルな話だな。
「まあ、そういう響きが好きなんだろうね」
ー そんな村田さんが、実は今回の『□□□ feat. the band apart』制作の影のフィクサーなんじゃないかって話になって、こうしてインタビューとかしてるわけなんですが。
「そうなの?……まあでも、ここ何年かのうちに凄い勢いで仲良くなったことは確かだよね」
ー 俺とコーシでいくつか取材受けてる時に気付いたんだけど、そもそも今回のリリースのきっかけを俺もコーシもよくわかってなかったという……始まりって何だったんですかね。
「…… 俺の認識だと、川崎に『アジアンゴシックから音源出さないか?』って言われたのが始まりだけど、荒井のソロ・ツアー(*村田シゲは荒井岳史バンドのサポート・ベーシストでもある)の時に、カケ(アジアンゴシック・マネージャー)からも軽くそんな話をされたかも。二人とも『レーベルに新しい血を入れたい』とかもっともらしいことを言ってたけどさ、俺の予想では the band apart のライブやリリース以外にもレーベル的な動きを活発化させたいって考えた時に、『そういえば忘れてたけど、あいつら一応ミュージシャンなんだよな』って思い出してもらえた……ってことなんじゃないか、単純に」
ー あはは、そうなんだ。
「『あはは、そうなんだ』って、お前の会社の話じゃねーか」
ー でも、そこからあの西新宿の決起集会につながっていくんですね。
「貝の店ね」
ー そうそう。feat. the band apart ってアイディアもその時に何となく出てたよね、貝を肴に日本酒飲みながら……良いね、最高。
「日本酒と貝はマジでどうでもいいけど……けっこう前に□□□で、LOSTAGEと8otto × □□□みたいな、お互いの曲を混ぜて一曲にしちゃうっていうのをやったことがあって。で、今回のオファーをもらったときもそんなイメージがすぐ浮かんで……ていうかまあ、単純に楽しそうな面子だなと」
ー LOSTAGE / 8otto の時はどんな曲作ったの?
「そのときは、あいつらのギターとか全部コピーして□□□の曲とつなげるっていう……」
ー コピー、って録音データをエディットしたってこと?
「いや、耳コピ」
ー あはは、マジで?……フフフ、それは病的な作業だね。
「毎日PCと向き合いながら……まあでも、そういうのあんまりないじゃん、既存の曲をつなげて一曲にしちゃうみたいなさ。自分がやったことない事って面白いで しょ。□□□にいとうせいこうがいるっていうのも『それ面白い!』ってノリの延長だと思うし、三浦さんも基本的に ”面白ければ何でもいい” って人だし」
ー □□□って変なバンド……バンドっていうか、変な集団だよね。
「まあ、一般的なイメージで言う ”バンド” ではないかもね。リハーサルスタジオで新曲作る、なんてこともないし、そもそもライブも年に数回しかやってないし。だけど、メンバー3人の行動範囲で言えば俺が一番バンド界隈にいるから、そこで出会った面白いヤツを、三浦さんやせいこうさんにつなげてみたり……それこそさっきのLOSTAGE / 8ottoとか。あの経験があったから今回の『前へ』に向かう流れも比較的スムースだった気がする。影のフィクサー感が出てるんだとしたら、そういうとこで色々動いてるからかもね。まあでも、出会いの場を作ったのが俺ってだけで、川崎と三浦さんなんて勝手にどんどん仲良くなってんじゃん」
ー 『熊枠』もあるし、ある意味シゲはコネクター……いや、ハブ?かな?ハブ的な役割を……
「”ハバー” だね」
ー ”ハバー”か。フフフ……ハバー村田。
「面白いヤツと面白いヤツを引き合わせると、単純にウケるじゃん。そういう場を増やしたいだけって感じかな。見てて自分も楽しいし」
ー そういうハバーな一面とは別に、ライブの練習でスタジオ入ってる時とか演出家みたいな意見を言うことがあるかと思えば、皆のスケジュール確認とかもやってたり。仕切り役だよね、以外と。
「……□□□はわりと役割分担が決まっててさ、俺も曲は書くけど、メイン・コンポーザーと言えばやっぱり三浦さんなわけじゃん。それで楽曲制作以外の、例えばライブだったりスケジュール面だったりを俺があれこれやってるから、そんな感じに見えるんじゃない」
ー 今回の『前へ』制作でも、うちのマネージャーがずいぶん頼りにしてましたよ。
「それは君んとこのマネージャーに問題があるんじゃないすかね」
ー まあ、そんな村田さんの暗躍もありつつ完成した今回の『前へ』ですが、一番好きな曲はどれですか。
「個人的に?……だったら2曲目の”前へ”かな」
ー LIl Eがラップしてると言われている……
「あの曲が一番ワクワクしたかな。他の曲はある程度、デモの時点からの俺の想像の範囲内だったっていうか……細かく言えば、1曲目の”板橋のジョン・メイヤー”は、はっきり言って演奏とかどうでも良くて、あの雰囲気とサビの合唱が全てじゃないですか。俺らの関係性を上手くデフォルメしてる感じもあるし」
ー うん。
「で、”神話具現”は、バック・トラックの構成とかエディット感はいつもの三浦さん+メロディアスなコード進行+原の歌声が新鮮ていう。ある意味一番スタンダードなコラボレーションの形っていうか」
ーそうだね。イメージはしやすい感じかも。
「”スニーカー”は、普通の人からしたら『□□□ feat.〜』のはずなのに川崎が弾き語ってるだけで何にもしてねーじゃん□□□のメンバー!……って感じじゃん?」
ー ははは、そうかな。
「別に貶してるわけじゃなくて、川崎&三浦のバイブスの高さがあってこそのあの形だと思うし、今までやったことないスタイルに挑戦してもらうっていうこと自体に価値があるわけじゃないですか。わかりやすく泣ける/感動する、って曲ではないけど、□□□サイドからしたら、何か新しいことをやる瞬間っていうのはそれと同等の価値があるって考えてるから、その意思表示でもあるし」
ー なるほどね。
「その中で ”前へ” は俺の予想してなかったハプニング感があったんだよね。まず思ってたよりLil Eのラップがちゃんとしてた」
ー ……昔取った杵柄ね。もうずいぶん昔だけどな。
「それとやっぱり、いとうさんのラップだね。”前へ” っていうテーマが、俺らのある意味ひねくれたユーモアに拠ってるってこと、あの人だけ知らなかったわけじゃん。だから当然のようにそのテーマに真正面から向き合って書いた歌詞っていうかさ。熱いよね」
ー トラックもカッコいいしね。ちょっとオリエンタルで。
「そうそう。デモの段階で聴いた時も『トラック良いじゃん』って思ってたけど、ラップが乗って、それに合わせて展開も変わって予想外に化けた……ってとこで、やっぱりこの曲が一番グッと来たかな」
ー レーベルとしては次作も見越しての今作なんだけど、その辺はどう?
「おたくのマネージャーにもう何回も言われてるよ。『次のはいつ出しますかね』『シゲさん次はいつ出しますかね』『シゲさん次は』って、何回もな」
ー 個人的には村田シゲの作った曲も聴いてみたいですね。
「フフフ、頑張ります」
ー これは俺が勝手に考えてるだけだけど、ビースティー・ボーイズがやってたグランド・ロイヤルってレーベルあったじゃん? あのくらい振り幅のあるリリースをこれからしていけたらいいなーと思っててさ。□□□はその第一弾的な……まあ、グランド・ロイヤル、潰れたけどね……。 でも、シゲもそうだと思うけど、面白いことをたくさんしたいじゃないですか、やっぱり。
「そりゃそうでしょ。逆にそうじゃないヤツなんているの?」
ー あはは、さすが。そうやって自分の感覚を拠り所にして、既存の何かをさらっと飛び越えてる感じとか、まーちゃんとちょっと似てるよね。
「そうなの?わかんないけど……まあ、極論を言えば音楽じゃなくてもいいんだよね、俺の場合。ミュージシャンって面白いヤツがいっぱいいるからこの界隈に居続けてるとこもあるから。例えば映画だって面白い作品いっぱいあるし、ゲームでも演劇でも何でもそうじゃん。自分が演奏してる間にも世界は動き続けて、面白いこともそうじゃないことも色々たくさん起こってるわけじゃないですか。そんな中で、じゃあ自分はどこにいたいかって言ったら、なるべく面白いものが見れ るところにいたいし、そこに加担していたいっていう」
ー なるほど。
「それと基本的に自分は何もできないって思ってるとこもあるんだよね、別に自己卑下とかじゃなく。まあ、ある程度ベースが弾けたり、多少は得意かな?って思える部分もあるけど、やっぱり自分に音楽の才能があるなんて全然思わないし。音楽やバンド、すごく好きだけどね。だからこそ、そこにこだわり過ぎないようにしてるのかも」
ー 端から見るとそんな風には見えないけど、わりと諦念的なところがあるんだね。あきらめから始めるっていうか。
「だって、自分の『面白い/面白くない』が世間のそれと一致するとは限らないじゃないですか。『良い曲はいつか売れる』とか言ってるヤツがいたら、本当にいかれてると思うしさ……って何か偉そうなこと言ってるけど、どうなんだろうね」
ー あはは、どうなんだろうね。
「でも諦めから始まってる、ていうのは正解かも」
ー だからどんな場でも明るく居れるんじゃない?基本的に期待しないスタンスだから。
「まあ、でも……期待してないって言っても、他人から見たら『俺の作ったカッコいい音楽を是非聴いて、そして金をくれ』って職業なわけでしょ、ミュージシャンって。『は?』って話だよね、あははは」
ー ははは、元も子もないことを。
「フフフ……あと、最近ひまつぶしにネットで知らないミュージシャンのインタビューとか読んでさ、すげー良いこと言ってるし、俺が好きなアーティスト名とか引き合いに出してるし、そういう記事の内容からある程度の音楽性を想像して、期待しながらyoutubeでそいつのMV観て……そしてキレてる」
ー あはは、つまり文章から色々期待し過ぎちゃうってことだよね。
「そう。だから、一概に物事に期待してないわけではないんだよね……って何の話だこれ」
ー 期待していないと言いつつ期待してしまう……そういう、ちょっとひねくれたが故の感動中毒っぽいところも、まーちゃんと似てますね。
「わかんないけど、クレメンタインは他の曲より二割増しで好きだと思う」
ー ちなみに感動した瞬間って泣いたりすんの?
「泣かないね。むしろ笑っちゃう」
ー そこはまーちゃんと逆なんだね。
「それは本当にどうでもいいかな」
ー ありがとうございました
(9月18日 New Acoustic Camp バックヤードにて)
2016.7.31日記
5月某日
時差ぼけのアメリカ人4名がスタジオに入って来て、なんだよこのクールな場所は、新築? Yeah!!…と普通に会話を始めたけど、よく考えたら6年ぶりのことだ。しかし、この感覚は滅多に会わない親戚と法事で再会した時に似ている。スタジオ見学もそこそこに上の居酒屋へ。皆でビールを注文、ライアンだけは昔と変わらず「ウォーター、クダサイ」。天ぷらを食う。
5月某日
リハーサルからかっこいいモック・オレンジ。彼らに会いに、懐かしい面々がバックヤードに次々と顔を出す。元K−PLANの社員や元オーリーの編集が缶ビール片手にフラフラしているのを懐かしく思いつつ電子タバコを吸っていると、時折すごい歓声が聞こえてくる。上階では複数のアイドル・グループが出演するイベントをやっていたようで、衣装を着た女の子たちがo-nestのステージ入口のドアを開けて入場するたびに、その声が裏に漏れてくるのだった(nestとwestのバックヤードは繋がっているのです)。ライブを終えたザックが、階段の踊り場で振付の最終確認をしているグループを見て「あの子たちは中学生?これから踊るの?ワオ、歓声が俺たちよりもすごい!」と、興味深そうにその様子を眺めていたので、BABY METALを知ってるか、と聞いてみたが、答えは「I Don’t know」だった。
5月某日
6年前のツアーの時はそれこそ毎晩ハードなパーティーを繰り広げていたように思うが、今回の深酒は鹿児島の夜だけだったし、サミットで警戒の厳重な空港で彼らと軽口を交わしつつ別れる時も至極あっさりとしたものだった。再会の予定は未確定でも、またいつか会うだろうという妙な安心感があるからだ。人種や音楽のあれこれも関係なしに、モック・オレンジとは良い友人になれたのだと思う。
7月某日
DJで頻繁に誘われるようになってから、必然的にクラブで他のDJが掛ける色々な音楽を耳にすることが多くなった。当たり前のことだが、世の中には僕が知らない名曲がまだたくさんある。20代の頃に比べれば先入観や偏見というものがほとんどなくなって、TMネットワークやTraxman、Lil Yachtyから千石撫子まで、ジャンルや新旧問わずにグッドミュージックとしてすべてを並列化して聴ける今だからこそ、なるべく世間の消費スピードに飲まれないよう自分のペースで音楽を味わいたい…と思いながらオルガンバーでゆらゆらと踊る午前3時。
7月某日
downyのドラマー、秋山さん主催の会にて数十人のドラマーの演奏を観る。ステージのドラムセットは固定だから基本的には同じ音色の筈でも、叩く人が替わると驚くほど音が違って楽しい。
Lil Yachtyの新しいアルバムで、808ではなくSP1200っぽいドラム音が使われていて、トラップでは珍しいその音色が妙に新鮮だった。そういえば SwindleのLondon to L.Aでも同じような感覚になった。トラップの奇数と偶数を行ったり来たりするハイハットとラップ、ジュークの独創的なリズムパターン、叩き手によって変わる生ドラムの響き。面白がることを忘れずにいたいものだ。
2016.4.30日記
4月某日
コークヘッドヒップスターズの企画でDJ。90sライクな、どことなくルードな雰囲気の客層で、明るい酔っ払いも多く楽しい。遊びに来ていたTT BOYが「いやーやっぱりミュージック・ラヴァーなんだね」と体を揺らすダイ君の選曲をしばらく楽しんでから、ザキとハジメちゃんが演奏する最後のHUSKING BEEを観る。ラウンジに戻るとコバさんがいて、腕の刺青増えましたね、と言ったら「俺ももう年だからねー」と含蓄のある返答。ライブとDJの時間が重なっていたのでコークヘッドの演奏は観れず、気付けばダイ君と二人でワインを3本空けていた。打ち上げの飲み屋でガスコンロが炎上したのもびっくりしたけど、この日一番の思い出は、DJ中にSODA!のムラさんに「君はもうパンクスじゃない」といきなり怒られたこと。久しぶりに腹筋が痛くなるくらい笑ってしまって、すいませんムラさん。
4月某日
A Tribe Called Questのファイフが亡くなった。渋谷で観たトライブのドキュメント映画の劇中に体調不良のくだりがあったような気もするけど、よく覚えていない。うちのバンドが最初のツアーからずっと使っている”Smooth Like Butter”は、ATCQのセカンドアルバム収録”Butter”のファイフのラインから拝借している。ルックスもフローもスムースなQティップに対して、どこかいなたいファイフのラップは、その好対照も相まって、とても人懐こく聴こえる。今はもうこの世にいない彼のその声を、僕は聴きたいときにいつでも聴ける。
ATCQも一役買っていた90年代のHIPHOPの熱は、ニューヨークから渋谷を経由して全国へ拡散していった。約20年の紆余曲折を経て、日本のラップ・シーンがまた新たな盛り上がりを見せている。いちファンとして、とても嬉しい。
4月某日
渋谷から練馬に帰る場合、井の頭通りから環七に出るのが一番早いのだが、夜から朝に変わる時間帯の景色でも閲しましょう、と妙な気が起こってしまい青山方面へ遠回りする。昼間の喧騒が嘘のような表参道。薄闇の中、ライトアップされたままのショーウィンドウが逆説的に強調する無人感を数えながら、たまにすれ違うのは千鳥足のねーちゃん、もしくはコツコツとしっかりした足音を立てて歩くお姉さん。信号待ちのタクシーの表示は「空車」。竹下通りもスイスイ走れる。途中のコンビニで”津南の天然水”を買い、レジの兄ちゃんに「どうも」と言ったら、「アイガトゥザイマシタ」と微笑まれた。水を飲みながら携帯をチェックすると、アメリカやインドネシアの友達から「地震は大丈夫?」という内容のメールが来ていた。
現れては消えていく支離滅裂な思考を横目にしゃかしゃかとペダルを漕ぎ続け、環七に出る頃には車も増えて来る。追い越していくトラックのスピードは昼間の2割増だし、野方辺りの側溝には、雑な補修工事による予期しない凹凸があるので注意深く走る。「実家が崩れちゃって、今は従兄弟の家にいるんだけど、目の前の道路とかバキバキになっちゃってて、でもみんな元気だよ、大丈夫」最近、地元に戻った熊本の友達が電話でそう話していたのを、なんとなく思い出した。それ大丈夫じゃねーだろ、と返すと友達は少し笑って言った。「わざわざ電話くれてありがとう」
HKWDIに着くと、初春の空はすっかり明るくなっている。駅前のマクドナルドで朝マック、ホットケーキかフィレオフィッシュか…とか考えてる僕はなんて幸せなんだろうと思う。
4月某日
歓声の上がり方からして他とは少し違うグッド・イベント、シンクロ二シティーに二度目の出演。入り時間より早めに行って十数年ぶりに観たdownyは、とてもよかった。コンビニの前でregaの竜二とすれ違う。envyの冒頭だけ観て準備のために楽屋に戻ってきたkawasakiが「yamazaki san kakkoyokatta」と復唱していた。終演後の打ち上げもすごく良い雰囲気だったので思わず長居しそうになったが、翌日のMV撮影の入り時間を考え、0時を過ぎる前に帰路へ。
家の前で車を降りると、少しだけ雨が降っていた。
2016.3.11日記
いつの間にか3月。しかも2016年。震災から5年。時間はあっという間に過ぎていく。
モック・オレンジがまた日本に来る。調べてみたら9年ぶりのことだった。時々メールで近況を報告したり、ドラマーのヒースが頻繁に日本へ来たりしていたので、そんなに時が経っているとは…と遠い目になりながら一服。ザックの家のソファーでライアンがろうそくを削って時間を潰していた姿や、シカゴのコカイン・マンション、カレッジ・タウンのきたねーシェア・ハウスで一緒に酒を飲んだ奴の名前は、忘れてしまった。
彼らが久々にアルバムをリリースするのと、鹿児島WALK INN STUDIOのタイチが地元のフェスにモック・オレンジを呼びたい!と思いついたタイミングが重なり、それならツアーしよう、ついでに音源も出そう、と決まっていく腰の軽さはインディーズならではである。宣伝用に送られてきた写真を見たら、ボーカルのライアンに貫禄がつき過ぎていて笑った。
モック・オレンジはフルタイムで活動しているバンドではないが、それでもマイペースにリリースを重ねてきている。普段の彼らは、ドラムのヒースは道路舗装会社の取締役、ベースのザックはサウンド・エンジニア、ギターのジョーは、彼曰く「馬鹿な白人が狂ったみたいにパーティーしにくるクソみたいなクラブ」のバーテンダー。ライアンの私生活は謎に包まれている…。そしてフライングで聴いた新作は、米中西部の土臭さとカラフルなサイケデリアがミックスされた私的名盤。さっきちょうどジョーから「スプリットに収録予定の曲が、速めのカントリー(fast country)なんだけど、いいかな」とメールが来ていたので「FUCK YEAH」と返した。
僕たちも現在、引っ越して大幅に負のオーラが減ったスタジオにて、「世の中に色んなことが起きすぎて、価値観も多元的じゃないですか、だから皆わかりやすい尺度に拠って思考停止して、排他的になっちゃって、いわゆる正論?とか、過激だけど一見痛快な発言に飛びつくんですよ、UKIPとかトランプとかさ、違います?いっかいてめーで噛み砕けっつーの!…だいたい…あ、電話だ、ワイフィーから電話…もしもし?もしもーし、何だよう、ラヴゥー」と、忙しさでいかれてしまったマネージャーの脳内思考垂れ流し実況を、全員で無視しながら録音中。Kawasakiが新しいアンプを鳴らしている。
いつもより長く感じた冬がようやく終わる兆しを見せたかと思えば、今日は冷たい雨。「メシ何食ったの?」「蕎麦」。今年は月1で更新して…したい。
2014.7.27日記
7月某日
後頭部に『RESPECT』というタトゥーの入ったデンマーク人がコーンフレークに牛乳とコカインをかけて食っている。そんな映画のワン・シーンを横目に、前の日記書いたのいつだっけな、と確認してみたら一年以上前だった!…つまり単なる放置です。すみません。
7月某日
海辺の会場で18インチのセットを叩く。リハーサルが終わって「いの一番」に海に飛び込んでいったユキオが、3曲目でタンバリンをハイハットにのせてくれた。その曲の途中でペダルが外れてしまった。自分のドラムセットはもちろん自分が一番叩きやすいようにセッティングしてある。しかしそれに慣れ過ぎてしまうと、違うセットに座った時にいまいち体が対応しきれない時がある。どんなドラムセットでも自分の思うように叩けなきゃドラマーじゃないぜ、と葉巻をくわえた巨匠は言っていた。
それはドラムでもターンテーブルでも同じことなんだろうと思う。
スティーブ•ガッドはウィスキー1瓶空けてから素晴らしいプレイを録音した…という都市伝説。テキーラショットにやられてBPMを見失った昨日の午前4時を反芻する。自分が感動していないことに他人の心が動くわけはないし、楽しむ余裕がないなら練習を重ねておけば良い、例えばミスターTGMXは酒を飲みながら歌う練習を…とか考えながら、今はダニエル•ジョンストンを聴いています。
7月某日
バンドを始めて十数年経つ。ゆっくりとだが、いろんな土地に友達が増えてきてとても嬉しい。その出会いが何であれ、誰かと共有した時間は年月と共に透き通っていく結晶物みたいなものだ。取り出した時に美しく光る時もあれば、眩しすぎて目を逸らしてしまう時もある。そのいびつな形や光を屈折させる幾つかの傷は、昔に思い描いたものとはまるで違うが、それはそれでいつか愛しく思えるのかもしれない。
7月某日
じっとしていても汗が滲む季節 the 夏。アイスコーヒーに牛乳をたっぷりと注いで飲む。覇ラ君が書いた真綾ちゃんの涼しげな曲、よくよく聴いてみると歌詞と歌唱に大人の色気が漂っていて、1度下がった体温が2度上がる。
スタジオには珍しく誰もいなかった。「そう、俺はモヒカン・リズム・マシーン」と自分に言い聞かせながら、延々とひとつのリズムパターンを繰り返すこと40分。気が狂いそうになる。
7月某日
用事を済ませに歌舞伎町へ。いつもの地下鉄ではなくJR東口の改札を抜けたところで、二十歳くらいのバイト前の憂鬱な感覚を思い出す。かなり人生勉強になった一番街のキャッチ・ライフに懐かしさも覚える。「懐かしい」のは、いつの間にかそれだけの時が経っているということだ。時間の流れの速さを知ってはいても、それを意識しながら悔いなく一日をやり切る、なんてことはなかなか難しい。例えば今日はどうだった?
7月某日
ケセンロックフェスに関わっている全ての皆、遊びに来てくれた人、いつも本当にありがとう。
2014.5.30日記
吉村さんとの初対面がいつだったのか、よく覚えていない。知り合った頃はよくまーちゃんと飲みに行ってて、当時のシェルター店員から苦情混じりの酔っぱらいの顛末を聞いたりした。2ndか3rd、どちらかは忘れてしまったけど、僕たちのレコ発にブッチャーズで出てもらった時、「お前の好きな曲やってやるよ」と言って、セットリストになかった LOST IN TIME を聴かせてくれた。最初の会話の断片を覚えてくれていた。foulとのスプリットに収録されている音源よりずっとヘヴィーな演奏だった。
どこかのライブの打ち上げで荒井と2人、ソースを一瓶一気飲みさせられて盛大に吐いたり(荒井は吐かなかった)、「飲め」「歌え」「脱げ」「筋トレをしろ」…知り合うほどに典型的な先輩風を吹かせてきたのには閉口した。年上を傘に着る奴は元々嫌いだったけど、友達の大切なパーティーの時に目に余る酔態をさらしていたので、「いい加減にして下さいよ」と諌めたら一方的に数発殴られケンカになった。次に会った時、すごく気まずそうにしていたので、「こないだは失礼しました」と言ったら「おう」という素っ気ない返事。おうっ、て何だよ!このジャイアンめ!と思ったけど、その後一緒にいいちこ飲んでたらケンカのことなんか忘れてしまった。たしかフィーバーの楽屋。
アメリカからモックオレンジとプラス・マイナスを呼んでツアーを回った時「飲まないと緊張して歌えない」と、昼からいいちこを飲んでた。打ち上げのあと、ホテルの廊下で「腕立てをしろ」と言われたので、「嫌です」と断ったら、じゃあ俺がやるのを見てろ、と腕立てを始めた。壁に寄りかかって煙草を吸いながらそれを見てたら、五回くらいでやめて、「お前それが先輩が腕立てしてるのを見守る態度か」と平手打ちをしてきたので部屋に帰った。翌日、「お前昨日逃げやがって」と言われたから「そりゃ逃げますよ。だって怖いんだもの」と言ったら、なぜかとても嬉しそうに「俺、怖いか〜?」と笑っていた。
大船渡で倒れた時、病院に見舞いに行ったら意外と元気で、「被災地で倒れるなんて真似できねーだろ?」と言いながらアイスを食ってた。
カウントダウンの幕張で酔っぱらったトシロウ君に「あんた酒やめろよ」と絡まれてた時は、「落ち着けトシロウ。だいたいまず酔っぱらいに言われたくない」と的確な答えを返してて笑った。
まーちゃんが倒れた時に荒井とフィーバーでケンカしたこととか、色々思い出して書こうと思えばまだまだ書けるけど、吉村さんの事を考えて最初に思い浮かんだのはその種のエピソードではなく、大人数の中でどこか所在なさげにしている姿だ。酒の入った透明なカップを片手に、話に加わるでもなくただそこに立っている。もしくはペパーランドの外のベンチで1人でギターを弾いてる姿。toddleのライブ会場の外で1人で煙草を吸っている姿。
若くして死んだ者はその可能性を惜しまれ、老いて死ぬ者はその記憶を惜しまれる、と僕の好きな漫画に書いてあった。人より記憶力に劣る僕はいつまで5月27日の電話を覚えているだろうか。きっといつか忘れてしまうだろう。そしてシャッフル機能の気まぐれで再生されるkocoronoやLOST IN TIMEを聴くたびに思い出すだろう。淋しがり屋の裏返しからくる不器用な理不尽さにムカついたこともたくさんあったけど、もう会えないと思うとやっぱり寂しい。自分勝手ですいません。
そう言えばこの地下室で一緒に歌詞を考えたこともありましたね。
また会えますかね?また会いましょう。
2013.5.27【街の14景】レコーディングエンジニア速水氏(+木暮)による全曲解説インタビュー(後編)
<後編>
――「荒M」って、意味深な仮タイトルですね(笑)。
木暮栄一 フフフ…。最初は、アルバム用の曲としては作ってなかったと思うんだよね。弾き語り用かなんかだったと思うんだけど、弾いてるの聴いて「いいねー」って言ってたら、このアルバムに入ってきたっていう。
速水 こんなしっとりした曲だけど、レコーディングはえれぇ手こずって。
――例えばどういう点で?
速水 これ、まーちゃんのベースはE-BOWなのね。磁気か何かを起こして、弦が振動するやつ。この音を録るのに半日くらいかかって(笑)。オクターブ上の音まで出ちゃって、それを出さないようにするのにすごい手こずって。一度、もう止めようかみたいな雰囲気にもなったよね(笑)。まーちゃんは意地でやってたけど。
木暮 そう(笑)。最終的にはチョーうまくなってたけどね。
速水 うん。このベースがすごい気持ちいいもんだから、最初のミックスでは音がえれぇデカくて。荒井が帰りの車で聴いてたら、窓が震えるほど低音出てたって(笑)。それで慌てて下げたっていう。
――はっははは。E-BOWを使うっていうのは、まーちゃんのアイデアで?
速水 なんかね、荒井のデモでは最初ストリングスが入ってて、じゃあそのイメージで作りたいなってなって。誰だったか覚えてないけど、そこでE-BOWっていうのが出たんじゃない? 昔録った曲でも、一度使ったよね。
木暮 あ、「led」って曲ですね。ギターに使ったんだけど。この曲も、アルバムならではって感じで、いいよね。
速水 次は……、なんだったかな? 「アウトサイダー」か。
木暮 スネアのピッチが低いでしょ? 低いっていうか、バシッっていう音。荒井からのリクエストで、カンカンした音は嫌だっていうのがあって(笑)。たぶんYASUNO No.5でザキ(husking beeのドラマー)の洗礼を受け過ぎたからだと思うんだけど(笑)。
速水 この曲、短いなあ。3分ないんだ。
木暮 アレンジがよく練られてんなあって感じがしますよね。
速水 ギターの流れとか、バンアパっぽいっちゃあ、バンアパっぽいよね。そう思うよ。
木暮 (ギター・ソロのタイミングで)ここまで西海岸と下北を行ったり来たりしてる雰囲気だったけど、ここでいきなり湘南っていう(笑)。荒井は鎌倉育ちらしいんだけど、ハイソサエティな街から小学校の途中で北区に来ちゃったって感じ…っていう解釈も出来る(笑)。このあたりのメロディも、ボーカリストが作った感じがするな。
――この曲に関しては、エンジニアとしてどんなトライアルがありました?
速水 この曲は、特に工夫のない(笑)、シンプルにそのまんま録ったかな。ギターリフのオモシロオカシイ感じを楽しんでいただけたらいいんじゃないでしょうか?
――なるほど。次のライさん曲は……。
速水 いや、ここで荒井さんから待ったがかかって、原さんの曲に。
木暮 そうだ。まだ「夜の向こうへ」のアレンジが出来てなかったんですよね。いちばんカオティックな時期で(笑)。ちなみにいつ録ってました?
速水 ……2月2日になってんな。
――録りはじめて一週間が過ぎた頃ですね。
速水 なんか、さっきから恥部を包み隠さずさらしてるような気がするけど。
木暮 大丈夫です。すでにバカの集団って思われてるから。
――はははは。
速水 (「ARENNYAで待ってる」を流して)これはもうレアなところを狙って。70年代のR&Bっていうか、ソウルっぽい感じを。どっちかっていうと、デッドな感じだよね。
木暮 そうですね。覚えてんのは、最初に速水さんと決めたタイトなドラムの音色があって。後でまーちゃんが聴いたら、もっとミュートを取って、ピッチ下げてってなって。それでこの音になったんだよね。まーちゃんの歌詞が面白いよね。録る前日の夜に仮歌録りをするんだけど、そん時にギリギリ出来たって感じだったかな。ひたすらiPhone片手に室内徘徊しながら歌詞打ち込んでた(笑)。
速水 焦りしか感じなくて、気の毒になってきて。
――(笑)エンジニアとしては、そういう切羽詰まってきた時に何か働きかけたりするんですか?
速水 励ましたり? しないよ、そんなこと。
木暮 ふはははは。
速水 心の中で「がんばれ」とは思ってるけど。
――密かに念を送ってると(笑)。爽快なコーラスがいいですよね。
速水 うん。AORというかソウルというか、オサレですよね、この曲は。
木暮 最近まーちゃんこういうの好きだよね。川崎のギターって、なんかエフェクトかかってんスか?
速水 フェイザーがかかってる。録りの時に仮でかけてて、そのまま忘れてかけっぱなしなんじゃないの。
木暮 あまりにも馴染んでて(笑)。イイ感じですよね。
速水 しかしエンディング長いな。フェイド・アウトだけど、実際7分近くやってたもんな。
木暮 どう終わるかが決まってなかったから、とりあえず長くやってるっていう(笑)。
速水 ハードディスクのムダ遣いが(笑)。
――はははは。次に来るのが「夜の向こうへ」ですね。
速水 そう。荒井さんワールド全開なポップ・チューン。これはもう、心地よくスカーンとビートが聴けるように。素直でストレートな、特に工夫のないミックスで(笑)。
木暮 ははははは。
――すごくクリアなミックスですよね。これってゲストコーラス入ってる?
木暮 いや。あの掛け合いのコーラスはまーちゃんだよ。
速水 結構、いい声だよね(笑)。掛け合いなんて久々じゃない?
木暮 「fool proof」以来、かな。
速水 このタンバリンの入れ方はポップだなあ。バスドラにちょっとだけリミッター入れてるだけで、ノーコンプだね。
木暮 ほぼ録り音ってことですか?
速水 うん。よく録れたよね。
木暮 荒井の中ではいちばんアレンジに時間かかったみたいだけど。ここまでツルッと聴かせるのに苦労したんじゃないかな。
速水 ♪チャカチャーンっていうギター、川崎が妙に上手かったの覚えてるな(笑)。次は……原さんが歌メロ出なくて死にそうになってたヤツだ。
木暮 あぁ、「AKIRAM」っすね。
速水 このイントロの入り方が曲者だよな。パッとあんま聴きわからないけど、いきなり表裏ひっくり返るっていう。Bメロのギターのメロの上に本来のメロを乗せるのに必死になってたよね。
――この頃はいよいよ状況的にパツパツで、えーちゃんが歌詞を書いたんだよね?
木暮 そう。俺が仮歌詞を書いて、それが採用されるっていう。仮だと思って書いてたから、1番のAメロとか全部の行で韻を踏むっていうムダなことをやってて(笑)。最初はインストにしようとしてたんだよね。興が乗ったのか、メロディを乗せることになって。
速水 大サビのところの広がりが気持ちいいんだよね。アコギの音もキレイに録れてよかったよね。このクラップ(手拍子)が気持ちいいんだよなあ! 4人で録ったんだけど、奇跡的にいい音で。だからちょっと大きめに入れて(笑)。
木暮 はははは。川崎が言ってたけど、ギターがスゴい難しいらしいよ。
速水 次がその川崎の「black」か。録ったのは、2月6日だね。全体的にコンプレッションをかけて、肉厚でマッチョなサウンドにして。全員でバーッと鳴らしてる雰囲気にしたいっていう作曲者の意図があったから。想像以上にマッチョになっちゃったけど。
木暮 川崎的には、もっとローファイでもよかったみたいですよ。音を汚くしたいって言ってたかな。
速水 へぇ。さすがに自分の曲だから、録るのも早かったよね。しかしあいつ、いいリフ作るよなあ。
木暮 ソロもかっこいいですよね。
速水 うん。みんなゲストに気づいてくれてるかな?
木暮 鈴木 健さんの渾身のシャウトが(笑)。
――遠方で叫び声が聴こえますね(笑)。で、この次は……。
木暮 「仇(になっても)」だね。
速水 これも太鼓に結構長めのリバーブかけたな。
木暮 そうなんですね。良い音。
速水 この、人生の機微をグライダーに重ねあわせた歌詞がいいよね。
木暮 アーティストの意向で歌詞カードには載ってないんだけど。(現在はHPに掲載されています)
――決して間に合わなかったわけではなく(笑)。
木暮 まぁ、間に合わなかったんだけど(笑)。
速水 まーちゃんって、全体が図太く鳴ってるよりも、一個一個の音がクリアにバンッ!ってくる方が好きだから。あの人の曲は、特にそういうふうに心掛けてますけど。
木暮 迫力がありつつも分離がいい、みたいな。
速水 うん。ひと頃、ファットめなサウンドメイクが続いてたような気がするんだけど、こういうクリアーな感じもいいよね。3枚目、4枚目あたりはかなり太めだったような。
木暮 そうっすね。「Surface ep」とかもそうですよね。
速水 何、「Surface ep」って?
――もはや忘却の彼方に(笑)。
速水 タイトルで言われてもわからないんだよ(笑)。で、次は「outro」か。同じコード進行で強引に繋いじゃうっていう。
木暮 ははははは。これは全体的にエフェクトかかってんすか?
速水 うん。全体にっていうか、一個一個の音をこもらせてる。ギターもハイ落ちさせてるし。
木暮 それが、家であったかいシチューが待ってる感に繋がってるんですね。
――はっはははは。
速水 俺、結構こもらせるのが好きで。真ん中よりちょっと低いところを太めに作るっていうか。もっこりした音が好きなんだよね。このカホンの音が妙にいい音で録れたんだよなあ。シンプルに録ったから、この曲に関してはあんまコメントないなあ(笑)。
木暮 そりゃそうですよね(笑)。あ、それで最後に「師走」を録ったのか。
――なんで「師走」が最後になったんですか?
木暮 たぶん、「仇」ができなさ過ぎて、これに取り掛かれなかったんじゃない?
速水 インストだし、歌がないぶん真ん中を空けとかないでいいから、エンジニアとしては割りとやりやすかったっていうか。歌ものでオケを頑張りすぎると入れる隙間がなくなったりするからね(笑)。いちおう歌の居場所を考えながら録るんだけど。面白い曲だよね、これ。マスタリングの橋本さんが言ってたけど、各楽器の絡みが立体的で面白いって。そこを楽しんで聴いてもらえたらいいんじゃないでしょうか。
――ミックス的には、ダイナミズム重視というか。
速水 そうだね。エンディングに向けて、最後の16小節くらいがだんだんデカく聴こえるような処理はしてるんだけど。だんだん音圧が上がっていくような。波形が徐々に太くなってるでしょ? (3:48あたりで)ここ、川崎が弾いてる横で、まーちゃんが自分でツマミ回して人力でフェードインさせてんだよね。だんだん迫ってくるようにしたいって言ってて。その画を想像しながら聴いてもらいたい(笑)。
木暮 ははははは。
速水 俺は、これをちゃんとライブでやれるのか心配でしょーがないんだけど。
木暮 フフ。練習ではなんとなく出来てますけどね。
速水 未だに俺、この部分(アウトロ)の拍が取れない。
木暮 6、7、6、8っすね。ちょっとトリッキーな。
速水 これを録ったのが……3月14日か。総制作日数としては33日間。本来の締め切りから1ヵ月と14日が過ぎ去っている。
木暮 (天を仰いで)……長かったなあ。
――過去最高に時間と労力をかけただけあって、非常に濃い作品に仕上がって。
速水 そうですね。あんまりリミッターとか、そういうのに頼らないで、しっかりした音で録れたらいいなと思ってたんだけど。結果的には気に入ってますね。爆音で聴いてもらいたいですね、今回のアルバムは。爆音でも耳に痛くないと思うので。<了>
速水直樹
レコーディング・エンジニア。the band apartの録音を初期からほぼ全て手がけている。趣味は釣り。酒好き。スタジオ近辺でのお気に入りの飲み屋は「とり幸」。
2013.5.23【街の14景】レコーディングエンジニア速水氏(+木暮)による全曲解説インタビュー(前編)
レコーディング・エンジニア
速水直樹氏インタヴュー
取材/構成:奥村明裕
――1stからバンアパ音源を手がけられてきた速水さんですが、まずエンジニアとしてではなく、いち音楽リスナーとして『街の14景』の感想を聞かせてください。
速水直樹 立場を変更して語るのは難しいねえ…どうなんだろうね? 録音の環境がガラッと変わったせいもあって、今まで出てた音とはまた違うので。制約があるなかでもいろいろ試したりして、空間的なアレンジを一生懸命がんばってやったつもりなんで。限られたスペースだけれど立体的な音場が作れたんじゃないかな、という気はしてます。
――なるほど。でも、それはエンジニアとしての感想ですよね。
木暮栄一 はっはははは。
速水 (笑)それが仕上がったものを聴いてもちゃんと出てるなと思って。聴いてて気持ちいいんじゃないかなと思うんだけどね。でもまだリスナーとしての聴き方なんて全然できないわ。
木暮 深く関わりすぎちゃって(笑)。
――レコーディングが始まる前に、メンバーとミーティングしたりしたんですか?
速水 結局なかったね。年末に、そろそろレコーディング入るから日程空けといてくださいと言われたものの、一緒に曲を聴いてどうしようって考える余裕はなく。マイクだけ立てに来たんだけど。結局、スタートが1ヵ月半遅れっていう。
木暮 コココ…キキキ…。
――笑うしかない木暮さんですが。
速水 (笑)おかげで他のオファーを引き受けられたからよかったんだけど。
――では、レコーディングした曲順で『街と14景』を振り返っていきましょうか。まず取り掛かったのは……。
速水 (プロトゥールスをいじって)「8月」か。1月の23日だったね。一発目で、久しぶりの3リズム同録っていう。
木暮 ベーシックは一発録りしましたね。
速水 ドラム、ベース、荒井がいっせーのでで演って。3人でレコーディングがはじまった時に川崎がこっち(ブース)にいて、「俺以外が今とりはじめた」ってツイートしてたな。遂にはじまっちゃったって(笑)。
木暮 フフフ…。
速水 あれは数テイクで終わったよね? 待たされただけあってこれは幸先いいぞ!と思ったら、次の曲で元の調子に戻っちゃったけど(笑)。音の面で言うと、今回アルバムは全体的にそうなんだけど、ドラムのオーバーヘッドに使ったマイクは無指向性ってやつで。マイクってだいたい音の入ってくる方向が決まってるんだけど、無指向性のマイクだと、例えば狙ってる先のシンバルだけじゃなく、ドラム全体と部屋で鳴ってる部分も録れるっていう。見た目の空間よりは余裕のある反響があって。あと、ベースが全部ステレオ録りしてるっていう。無駄にマイクを2本立てて。
――ベーアンの前に2本セットして。
速水 そう。ベース音を良く聴くとちょっと広がってる感じするでしょ? これで味をしめて最近他の現場でもよく使ってるんだけど。
木暮 ウチらのレコーディングをよく実験に使いますよね…(笑)。
速水 うん(笑)。ここ(STUDIO VANQUISH)って、意外とリフレクションはあるんだけど当然パーンッていう広がりはないから、少しでも窮屈な感じがしないようにしたくて。タイトなサウンドにしてちゃんと余韻が感じられるようにしたいなと思って。だから、オフっぽく立てたマイクと無指向性のマイクのブレンドでやってみて。曲によっては全然違うアプローチもあるけど、この「8月」なんかはバランスよく録れてるよね。
――そういう技術的な面もメンバーと話し合って決めていくんですか?
木暮 基本お任せで話し合いつつ。面白い音になっていれば大抵OKだから。
速水 で、次に録ったのが「12月の」か。
――8月から一気に12月へ(笑)。早くあがってただけに木暮曲から取り掛かって。
速水 結局、木暮の曲を5曲最初に録ったことになるね。
――「12月の」はビンテージっぽいっていうか、音の手触りが温かい印象があります。
木暮 ドラムをすげぇミュートした覚えがあるけど。
速水 あ、そうだ。これタム以外のドラムは全部モノラルで録ってるのね。ドラムがモノなのにベースがステレオっていう、訳わかんない曲(笑)。音もミュートの効いた詰まった感じになってるから、それでアナログっぽく聴こえるのかな。今回のアルバムの裏テーマに“80年代”っていうのはあったよね。
木暮 俺が言ってたのは、タムのパンをバカみたいに左右に振りたいってことだけで。あ、あとは川崎のギターに温泉みたいなリバーブをかけてくれって。
速水 あぁ(笑)。したら、かけ過ぎたって後悔して、何回もミキシングし直して。ちょっとクラップが小さ過ぎたかなあ。
木暮 あれ、締め切りギリギリなのにまだ録れる曲がなくて、でも速水さんはスタンバイしてるから「ちょっとクラップ録ります」とか言って、メンバー4人でやったことを覚えてます。死んだ目で。
速水 リズムの悪いクラップをね(笑)。でも、展開が面白いよね。木暮先生は、同じコードに違うメロディを強引に入れてくるのが得意だから。それを無理やり歌わされる荒井の気の毒な顔が面白くて(笑)。「12月の」で俺が勝手にやったのって、最後に荒井のギターが残るってことくらいかな。素材で録ったやつがあったんで、仕掛け的に入れてみて。聴いてて気持ちいいよね。今回の曲はどれも気持ちいいんだけど。変なことしてる割には。この仮タイトル、「スペース」って、なんだっけ?
木暮 「泳ぐ針」っすね。
――続いて「泳ぐ針」に取り掛かって。
速水 これ、スネアの上にタオル乗せてピチピチにしてやったんだよね。タオルの上から引っ叩いて、全然鳴らなくして。録ってる時は面白いなと思ったけど、ヌケが悪すぎてミックスでえらい苦労したっていう。
木暮 はははははっ。
速水 この曲はなんといっても、初の試みのダブパートでしょう? 実に地味なダブですけど(笑)、前後の、昔の歌謡風エレクトロ・ポップみたいな雰囲気を一新して、ダブからプログレっぽい感じに流れていくのが聴き応えあるよね。ダブが聴きたいからこの曲をかける、みたいな。
木暮 この曲は、元々俺が考えたベース・ラインがあったんだけど、まーちゃんがニュアンスだけ残してフレーズを考えて。ここ(ブース)に座ってチョー考えてましたよね。結構時間かかったかな。(ダブパートに差し掛かって)いちばん趣味に走ってるよね。
速水 (3:20頃の)ジャリーンっていう、ギターの入りが気持ちいいんだよなあ。
木暮 このあたりのエフェクターも全部速水さんにお任せで。
速水 久しぶりにフェイザーをかけてみて。こういうショワ〜ってしたやつ。昔のピンク・フロイドっぽいイメージで。ベース・ラインがちょっとフロイドっぽかったから。ダブ→ピンク・フロイド、からのTM(ネットワーク)っていう。
木暮 フフ…。
速水 歌録りしてる時に「TMっぽいね」って荒井に言われてたよね?
木暮 TM……小室哲哉、好きだったからね。
速水 次は……「ノード」か。いちばん修正の多かったやつ。
木暮 試行錯誤しました。
速水 俺はヴォーカルをもっとウェットにしたかったのに、木暮が「12月の」のミックスでドライに目覚めちゃって、「ドライにしろ」って言い張って。
木暮 最初あがってきたやつには声に面白いエフェクトがかかってて。最初はいいなって思ったんだけど、その後に「12月の」のミックス聴いて、「こういう感じだな」って思っちゃって。
速水 俺、すげぇ気に入ってたんだけどなー。
木暮 それでドライな感じに直してもらったら、今度川崎のギターの音が気に入らなくなってきて。荒井がバッドキャットってアンプ使ってるんだけど、すごい音の立ち上がりが早いっていうか。
速水 フレーズがはっきり前に出てくるよね。それに対して川崎のギターは、歪み感も手伝ってフレーズが見えにくいところが気になったんだよね。だから、歪みの音にライン録りした音をうっすら混ぜて、少し輪郭をはっきりさせて。
木暮 川崎のギターをはっきり聴かせたかったから。この曲は、意外とがんばったパズルっていうか。(3:44あたりで)この後歌が入ってくる展開あるじゃん? あそこ最初に速水さんに聴かせた時に爆笑してて。「このメロ、ここに乗せるんだ。バカっぽい!」って(笑)。
速水 もう慣れちゃったからわかんないけど(笑)。最初インパクトあったよね。荒井がこのカッティング二度とやりたくないって言ってたな。この曲のいちばんの聴きどころは、やっぱり最後の4小節でしょ? あそこの開放感あふれる、ダイナミックなプレイったらないよね。
――あぁ。全力疾走してる4人が目に浮かぶような(笑)。
木暮 それまでジャカジャカ忙しいことやってて、いきなりワンコードになるから。ラストスパート感がすごいよね(笑)。
速水 ここと、いちばん頭のバスドラのズン!が気持ちいい。そして木暮シリーズのオーラスが、一曲目だ。
――オープニングの「いつかの」ですね。
速水 これ(「いつかの」)がいちばんバンアパっぽくないような。でも、ラウドになっていくカーヴがすごくいい感じで出たなって。これもデカイ音で聴いてほしいね。ムダに5分くらいあるけど。
木暮栄一 (笑)イントロのつもりで作ってたんだけど、結構長くなっちゃって。
速水 ドラムには普段プラグインのエフェクターって使わないんだけど、この曲は割りと長めのを使ってて。バンアパは生音がメインで音作ってるから、そういう意味ではいつもとは違って。
――ちょっと人工的なミックスとういか。
速水 そうですね。曲にあわせてスネアを変えたのは正解だったよね? うまくマッチしてる。ヴォーカルのエコーが徐々に深くなっていって。このエコーは、いわゆるプレート系のプラグインのエフェクトなんだけど。鉄板エコーってやつ。そのモノラルのリバーヴがだんだん増えていって、長さも怒涛の10秒っていう。この曲から2曲目(「ノード」)への繋ぎは得意なパターンだよね。気持ちよく繋がったね。
木暮 アルバムならではっていうか。でも、試聴機で一発目がこれって、どうなんだろう…? このイントロで「買う!」って思うやつ少ないでしょ(笑)。
――はははは。木暮曲の次に俎上に載せたのは、荒井曲?
速水 そうだね。「荒M」。
……後編に続く